友達の姉の話

友人の姉が高校生の頃の話です。
友人の姉（以下、お姉さんとします）はかなり派手なタイプで、はっきり言ってしまうと不良でした。何度か補導されたことも実際にあったようです。
高校の頃、お姉さんのクラスにはタカハシという男子がいたのですが、彼は気が弱く太っていて勉強も不得意で、おまけに母子家庭育ちだったようで、お姉さんとお姉さんの友達はよく彼をパシリにしたり「ブタハシ」「バカハシ」など酷いあだ名で呼んだり、深夜の山に置き去りにしたり暴力を振るったこともあったようです。いくらいじめられても気の弱い彼は抵抗も親や教師にチクることもできずにやられるがままで、それを良いことにお姉さん達は当時ストレス発散に好き勝手していました。

ある日、お姉さんはいつものように夜に家を抜け出して男友達2人（Aさん、Bさんとします）と女友達1人（Cさんとします）と一緒にAさんの車で近くの山の入り口にある滅多に人通りの無いトンネル付近に行って酒を飲んで騒いでいたそうです。深夜になり酒が少なくなってきたものの買い足しに行くのは面倒だということで、誰からともなく「ブタハシに買って来させよう」と言い出しました。Aさんがタカハシに5分以内に酒を買って持って来ないと前に撮った裸の写真をばらまくと言った旨の電話をしたものの彼は10分経っても来ず、ほろ酔いでテンションが高くなっていたお姉さん達はは残った酒をあけながら「今度は裸で山に置いていくか」「裸で木に縛り付けてやるか」などと残酷にも楽しそうに喋っていたそうです。

30分以上経った頃、ようやくタカハシが現れました。血の気の多いBさんが立ち上がり「テメーおせえんだよ！」とタカハシの襟首を掴んだ途端、何か赤いものが飛んできました。
タカハシの手には包丁が握られていました。Bさんは胸を刺されたらしく聞いたこともないような叫び声を上げながら反撃しようとしたものの、タカハシの手は止まりません。お姉さん達は突然の出来事に呆気に取られて少しの間固まっていましたが、Cさんの「警察！」の声にAハッとしたようにAさんが「テメーふざけんなよ！」と後ろからタカハシを羽交締めにしようと近寄りました。しかし、Aさんも首を刺され、あっという間にBさんと同じように滅多刺しにされてしまったそうです。Bさんはもうその時点でピクリとも動かなくなっていました。

タカハシはゆっくり立ち上がってお姉さんとCさんに向き直りました。Cさんは腰を抜かしてしまいましたが、お姉さんはここで怯えたら自分達も同じように殺されて終わりだと思い、震える声で「おい、3人殺したら死刑になるんだよ。分かってんの？」と聞いたそうです。タカハシが「死刑」の言葉に反応すると、お姉さんは「子供でも3人以上殺すと死刑になんだよ。あたし達殺したら死刑確定だから。」と追撃します。もちろんこれはお姉さんが考えた嘘で、タカハシが法律を知っていれば逆効果だったかもしれませんが幸いタカハシは嘘だと気付かず、凶器を持った手を下ろすと「死刑はお母ちゃんが悲しむなあ。お母ちゃんに会えなくなるなあ。」と言ったそうです。お姉さんがある程度余裕を取り戻し、「自分で警察行けよ。罪が軽くなるらしいし。」と言うと、しかしタカハシは再び近づいてきました。お姉さんは刺されると思って目を瞑ったそうですが、頬に鋭い痛みを感じただけでした。目を開けると横にいるCさんが同じような場所を切りつけられており、悲鳴をあげていたためお姉さんは自分も切りつけられたのだと理解したそうです。泣き叫ぶCさんとお姉さんに背を向け、タカハシは「警察に行ってくる。」と一言残して山を降りて行きました。その言葉は本当だったらしく、すぐにパトカーと救急車が現場にやってきてお姉さんとCさんは保護されたそうです。

その話を頰に傷跡のあるお姉さんから直接聞いた私は「怖い体験でしたね。」と素直な感想を述べました。しかし、話し始めからずっとニヤニヤしていたお姉さんは、「いやいや、この話はオチがサイコーだから。」と言いました。
タカハシはその後裁判で懲役刑を言い渡されごくごく真面目に服役していたそうですが、良い話も悪い話もすぐに広まる田舎だったこともあり彼の母親は近所からの嫌がらせに遭い、勤め先でも理不尽に解雇され、心を病んで自殺してしまったそうです。そして、塀の中でそれを聞いたタカハシも絶望からか看守が目を話した隙に自殺したそうです。

オチ、こと後日談を「殺しても殺さなくても母ちゃんに会えない上に死ぬとか、やっぱバカハシだわ。」と笑い転げながら話すお姉さんが、私は一番怖かったです。