喚声
投稿者:冨田新 (1)
これは私が中学生の頃の話です。私はその頃あるバンドの音楽がとても好きで、学校に行く途中などはずっとイヤホンをしながら聞いていました。
ある日、いつものように登校中にイヤホンをしながら音楽にノッていると、不意に「わー」という歓声が聞こえてきました。思わず眉を顰めてしまいました。
なぜなら、その曲には歓声なんて入っていないはずだからです。しかしとても小さな声だったので、そのときは「気のせいかな」と思ってスルーしました。
下校時もイヤホンをして音楽を聞いていたのですが、そのときにもまた「わー」という声が聞えたました。
今回は気の所為で済ませることのできない音量でした。曲に負けないくらいの音量だったのです。
そもそもそのときに聞いていた音楽にはそんな音は入っていないはずです。
不審に思い、もう一度聞いてみたのですが、そのときにはもう聞こえなくなっていました。
私は少し怖くなりましたが、受験の時期で勉強ばかりしていたので、疲れているんだろうと思うことにしました。
しかし、次の日も、そのまた次の日も音楽を聞いていると「わー」という声が聞こえてきます。しかも、その音量はだんだんと大きくなっていました。私もさすがに怖くなってきます。
そのときは登校中だったのですが、またあの声が聞こえてきました。
私は思わずイヤホンを外して投げてしまいました。すると、もちろん歓声は聞こえてきません。
音楽を聞けないのは残念ですが、不気味な思いをするよりは断然ましでした。私はその日からイヤホンを付けることをやめました。
イヤホンを付けなくなってから一週間ほど経ったころのことです。あの声を聞くことは無くなり、私はもうすっかり安心しきっていて、声のことなど忘れかけていました。
そんなある日、塾で勉強をしていると、どこからかノイズのような音が聞えます。
何とかテキストの方へ意識を持っていこうとするのですが、やはり音が気になってしまいます。
私はどうしても勉強に集中できなくて、つい音のほうへ耳を澄ませてみました。音の原因が分かれば気にならなくなると思ったのです。
耳を澄ませると、微かに「わー」と聞こえてきます。私は驚いて周りの様子を窺いますが、誰一人気が付いている様子はありませんでした。私だけが驚いているのです。
私はすぐに声のことを思い出しました。しかし、止め方は分かりません。
あのときならイヤホンを外せば良かったのですが、今回はイヤホンなんかしていなくても音が聞こえるのです。
しかも、いつまで経ってもその声は止まなかったのです。ずっとひっきりなしに聞こえていました。
その声は私が勉強をやめるまで続き、塾から出る頃にはいつの間にか止んでいました。
私はその日からあらゆることに集中できなくなりました。何かに集中し始めると、どこからともなく「わー」という声が聞こえるのです。
その声の元は、建物の外のような気もするし、すぐ隣の部屋なような気もするし、同じ部屋にいるような気もしました。とにかく不気味なのです。
その声は私にしか聞こえず、しかも日に日に大きくなっていました。
声の主が近付いてきているのかと想像するとゾッとしてしまって、私はどんどん鬱っぽくなっていきました。
一か月後、そのときにはすでにかなりクリアにあの歓声が聞こえるようになっていました。
いや、あれは歓声なんかじゃありませんでした。
あの声がクリアになっていくにつれて、私は日に日に恐怖を募らせていました。
その声の正体は、怨嗟の声でした。老若男女の声で、
「殺してやる」「なんで私が」「一緒に行こう」「怖いよ」「助けて」と言うのです。
明らかに憑かれてますから神社などでお祓いしましょう。
お祓いしたら、病気が治る可能性があると思いますが。