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呪い・祟り

匿さんさんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

柱跡
長編 2022/12/21 11:25 7,406view
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 これは俺が大学時代にお世話になった大学院生「I先輩」から聞いた話だ。
 
 今から15年ほど前、俺は東京都内のとある私立大学の大学生だった。
 今思えば飯の種にもならない「文学部史学科」などに入学して、華の大学生活を毎日古文書とのにらめっこに費やしていたのだからざまあない。専門は、日本古代史。実際は「専門」だなんて噴飯物で、古文書もプロの訳文が無けりゃ読めたもんじゃない「なんちゃって大学生」だった。
 ゼミの教授はムーミンとヨーダをミックスさせたような風貌で、なかなか一筋縄でいかない個性的な人物だったが、そこに触れるとキーボードを打つ手が止まらなくなって本稿のタイトルが「ムーミンおじさんの怪」になってしまうのでやめておく。
 まあ、なんやかんやで大学生活を楽しんでたってわけ。いろんな友達と出会って、馬鹿をして、時には夢を語り合って、喧嘩して。思い出すとちょっぴり泣けてくるなあ。
 で、そんな中、よくお世話になっていた先輩がいた。
 名前を「I先輩」という。
 このI先輩、見た目は人畜無害そうなお人よしで、メントス風味のキノコみたいなシルエットなんだけども、週末になると撮りためたアニメを夜通し貪る超弩級のアニメオタクだった。金もないのに授業後に俺を食事に誘っては親の敵を討つような目で「俺におごらせてくれ!」と叫ぶものだからいつも無理をさせてしまっていた。いや、いい人なんだよ、ホント。
 で、一緒に飯食って何を話すかと言えば、普段は歴史の話や学会の動向、研究の進捗状況やゼミのウワサ話などとりとめもないものだったが、ある日の深夜の富士そばで、なぜか怪談じみた話になった。夏休み直前だったし、東京の熱帯夜がふと俺たちの会話に魔をさしたのかもしれない。

 それは、こんな話だ。

(ここからは、記憶をたどりながらI先輩の立場から書かせてもらいます)

 いやさ、S(俺)くん。
 俺は奈良県出身だから珍しくもなんともないんだけどさ、例えば新しく家を建てるときに土地の調査をしたら遺跡が出てくる、なんてことが世の中にはままあるわけ。
 え?そりゃもちろん出てきた場合は基本的には土地の教育委員会が一応調査するよ。文化財関係は教育委員会の管轄なんだ。調査が終わるまで工事は中断。場合によっては設計図の変更を余儀なくされることもあるわけ。
 で、調査の結果「そこまで重要じゃないだろう」と判断されると、埋め返されてやっと宅地造成になるわけ。
 これ、Sくんならどう思う?遺跡の上に住みたい?
 …俺は絶対イヤだな。
 いやさ、こんな事件があったからなんだよ。

 ちょうど世の中がバブルに沸いて、郊外にも新興住宅地が次々に建てられている頃のことらしい。

 T県のとある町に、ある企業のお偉いさん(仮にAさんとする)が山中に別荘地を探し求めてやってきた。
 不動産業者と山中を歩きながら、事前に地図で目星をつけてきたのだろうお目当てのエリアを視察していたのだが、沢が近くにあるためか想像したより湿気っぽい。
 渋い顔をして帰路に就く途中、山中に日当たりのよい平地が目についた。下車して確認してみると、森の中にぽっかりと浮かび上がるように平坦な空間ができている。瑞々しい芝が一面を覆っており、周囲を取り囲むように木々が天を覆っている。後から不動産屋が確認したところ、東西・南北それぞれにきっちり50mほどあったという。一目で気に入ったAさんは購入を即決、宅地造成にとりかかった。
 しばらくたったころ、不動産屋から連絡が入った。
 「いや~…厄介なのが出ちゃいまして…遺跡らしきものが出ました」という。
 あんな山中に?と驚きながらも、出てしまったものは仕方ないと、とりあえず現場を見にいったらしいんだ。すると遺跡とは聞いていたものの、予想だにしないものだった。てっきり住居跡だとか石室だとかそんなところだと思っていたら、直径40m、深さ20mの丸穴だった。あまりのことに驚いて、「本当に遺跡ですか?」と聞いてしまったらしい。周囲から縄文晩期~弥生中期までの土器の破片も見つかっており、古代の遺跡跡ではないかということだった。柱跡にしては巨大すぎるし、これだけ巨大な柱であれば一部残存していていいはずだがそれらしきものは見当たらないという。街の教育委員会もどうしていいものか思案顔だったが、早く決断しないと工事が冬季に及んでしまうという建築会社側の哀願もあり、早々に埋め戻して宅地造成に入ることを許可した。
 やがて、無事完成に至り、翌春一家は別荘にやってきた。Aさん・妻・中学生の娘・小学生の息子の4人だったという。庭でバーベキューをしたり沢で釣りをしたり、バードウォッチングをしたりして楽しんだ。一週間ほどの別荘生活終えて一家は帰路に就いたのだが、その道すがら一家は交通事故に合って全員が即死した。
 こんなこと言っちゃナンだが、これだけなら痛ましいけれどありふれた不幸な交通事故の話に過ぎない。
 それが、これで終わらなかったんだよ。
 今度は旦那・妻の両親が後を追うように次々と死に、一族からも人死にが出はじめた。
 数えてみると、竣工から半年間で14人が死んだという。

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コメント(1)
  • 興味深い話しでした。

    2022/12/21/12:11

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