頭を打ったら変な世界に迷い込んだ
投稿者:寇 (4)
もう嫌だ、早く親の許へ帰りたい。
そう願って走っていると、道路の先、俺が向かって走っているあたりに神々しい輝きが放った。
一見して、日の出の陽光に似たその輝きに向かって、俺は無我夢中で走った。
ここでも俺の第六感が「あの光の方へ走れ」と訴えかけていたように思える。
それで、その光に触れる直前、背後から『らくになれたのに』と低い声色で囁かれた。
一瞬ゾクッとしたが、振り返ろうとした刹那、視界が真っ白に包まれて、意識が遠退いた。
ああ、これ死ぬのかな、なんて意識が途切れる直前に思ったが、割とすぐに目が覚めた気がした。
目を開けると、そこは病室だった。
ちょうど看護士さんが部屋の掃除?に来ていて、俺の目が開いてるのを見て驚いたようにナースコールを押していた。
男の先生が来て色々検査されたが、俺に異常が無いとだけ看護士達と話しているのを聞いて、その時はまだ意識がボーっとしてたから会話の全容はよく覚えていない。
時間は夜の七時過ぎくらいで、ちょうど見舞いの面会時間ギリギリだったが、俺が意識を取り戻したと連絡を受けた両親が飛んできた。
何か、いろいろ一気に言われたが、ほとんど右から左に聞き流す勢いだった。
ただ、俺が三日くらい目を覚まさなかったと言われたので、俺は「え、サッカーしてたけど」とポツリとこぼせば、「だからそれは三日前だって」と母に言われた。
俺とサッカーをしていた友達の話では、俺はサッカーをしている途中、ボールで足を滑らせてアスファルトに頭を打ち付けた。
そして、そのまま意識を失った俺を見て、友達たちが近くの大人に助けを求めて救急車を呼んでもらったらしく、俺はこうして入院している。
不思議なのが、幸いそこまで強く打ち付けていなかったので、数針縫う程度で外傷は治療できたそうだが、俺が意識を取り戻す気配が無く、いろいろと精密検査が行われた。
それでもどこにも異常が無かったから、俺の担当医も最悪大学病院を紹介すると言ってたそうだ。
そんな事が俺が眠っている間におこってたらしい。
俺が目覚めてから念の為に再度精密検査が行われたが、異常が見当たらなかったので、数日後には退院手続きが行われた。
勿論、日常生活に戻ってからも眩暈があったりとか体に異常があった場合はすぐに病院に連絡すように言われたが、何カ月経っても、それこそ数年経っても風邪以外かかった事が無いくらいには健康体だったので、病院にお世話になる事はあれ以来無かった。
結局、あの時、俺が意識を失っている間に体験した事はただの夢だったと思ってるけど、今でもあの時に感じたリアルな空気感は覚えている。
あの夢の世界に居た住人は何者だったのか。
どうして日陰に入ったように全員が暗く見えたのか。
能面を張り付けたような顔は何だったのか、全てが分からずじまいだったが、所詮夢は夢でしかなく、考えても意味はないのかもしれないと思った。
ただ、改めて思い起こせば、もしかしたら俺は当時死の淵をさ迷っていたのかもしれないと思っている。
あのまま住人に付いていってたら、俺は今こうして生きていなかったのかもしれない。
住人たちが言っていた『らくになる』とはそういう意味なのではないだろうか。
まあ、それほど不思議な体験だった。
勿論あの世に連れて行かれるを指しているじゃないかな。
こういう話大好物だ
良い、わくわくした