あれは
投稿者:古川ゆう (1)
今でも鮮明に覚えている。
あれは、僕が中学2年生の夏休み中に体験した出来事だ。
僕の地元は島で人口が200人ほどしかいない離島に住んでいた。
長いようでとても短かく感じた夏休みの夜。
僕はいつも一つ下の男子の後輩と夜中の0時頃から家の前に見える海端まで出ては朝日が登るまで2人でくだらない事や夢について語るのが日課になっていた。
当時、中学生だった僕達はそれが「カッコいい男の夏休みの過ごし方。」そう思っていたに違いない。
そんな毎日を過ごしていた、ある日の茹だる様な蒸し暑い夜のこと。
普段、いつもの待ち合わせ場所の海端に先に着いて待っていた後輩であったがその日は珍しく
「ごめん、今日は用事があるから行くの遅れる。先に待っといて。」
携帯に連絡があった。
「わかった。」
僕は一言だけ返事を返した。
その日、僕は何故だか無性に「海端で満天の星が広がる夜空を眺めながらラーメンを食べたい、絶対美味しいに違いない。」と思い自分だけ堪能するのは悪い気がして後輩の分も用意しようと2種類のカップラーメンにお湯を注ぎ込んだ。
自宅から待ち合わせ場所である海端まで、さほど遠くはないが熱くなった2つのカップラーメンの容器を両手で持ち慎重に歩みを進め無事に辿り着き後輩が来るまで食べずに待っている事にした。
3分後…
「遅いぞ、後輩…。もうカップラーメンは出来ている。まだか、まだ来ないのか。」
それからまた5分…10分…と後輩を待つが来ない。
挙句、僕が痺れを切らし途中で送った「まだ来ないの?」という催促のメッセージの返事も返ってこず後輩は一向に現れる気配はなかった。
勿論この時点で、後輩が来てから一緒に食べようと思っていたカップラーメンは既に伸びきっていたのを僕は蓋を開けて確認済みだった。
僕が集合場所に到着してから30分が経過しており徐々に後輩が来ない事に苛立ちを感じはじめていた。
その時、地面に座りこんで携帯を触っていた僕は突然、背後から何かの気配を感じた。
「ん?」後ろを振り返るが誰もいない。
気のせいかとも思った。
だが、その直後から辺りの空気が一瞬にして澱む様に感じ、先程まで一定の感覚で波打っていた潮の音もピタリと静止した。
霊感など無いと思い込んでいたが、この時ばかりは全身に纏わりつく異様な空気感を肌でひしひしと感じていたに違いない。
「なんか、ここやばい。」
静寂の闇にドクドクと響き渡る自身の心臓の音を押し殺すようにして立って辺りを見渡した。
今となっては、どうしてあの時あの場所が気になったのか自分の視野に入れてしまったのかはわからない。
自分が立っている場所から数百メートル先、目視で確認できるところにある自分の地区から後輩の地区まで続いた道路の境目に、弱々とした淡いオレンジ色の街灯が照らしている湾曲したカーブがあった。
その時、光に灯されたカーブを見ていた僕は何故か心の何処で「もう少しで後輩が来る…。」と思ったのだ。
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