「俺、何か蹴った」

高校の頃の夏休み、俺は暇を持て余していた。
そこに友人から「海水浴に行かないか？」と連絡があり、俺は即OKした。

当日他の友人たちとも合流し、海へと向かった。
海に着き、俺たちは岸と少し沖にあるテトラポッドを延々と往復して海水浴を楽しんだ。
ゴーグルは俺が持ってきた1個しかなく、1往復するたびにゴーグルを友人に順番に回した。

ある時テトラポッド付近で、友人が突然「何か蹴った！」と叫んだ。

魚でもいるのか？と聞いたが、そいつは「いや何か違う、少なくとも魚じゃない」と断言した。
（魚じゃないなら何だ？）と気になった俺は、「ゴーグル貸してくれ！俺、見てみたい」とゴーグルを使っていた友人に聞いたが、「いやお前の順番は次の次だろ。後にしろよ」と言われた。
何を蹴ったのか気になる気持ちもあったが、皆岸に向かっていたので俺も追いかけた。

それから2時間くらい後だろうか、急に海から上がるよう岸の方から指示された。岸には救急車が来ていて、何やらざわついている。もう夕方だったこともあり、俺たちはそのまま帰ることにした。

その日のニュースで、俺たちが訪れた海で溺死事故があったらしい。
「あの時ゴーグルを借りて、見に行っていたらもしかしたら…」と今でも考えてしまう。