その日家族でいつも行く都立の公園に、自動車で行く事になった。
片道40分の行程である。
私は自動車に乗ろうとした時、強い不安感に襲われた。
これは以前にもあった、良くないことが起こる前兆だった。
そして、今回はかつてない程の強さだった。
私は自動車の免許を持っていなかったので、運転は父親がする。
父はベテランタクシー運転手なので、事故の心配はまずないが、この不安感に襲われた時は要注意なので、少し緊張した口調で、
「今日は嫌な予感がするから、私が助手席に座るね。」と言った。
助手席に座り公園へ自動車が走り出してからも、強い不安感は去らなかった。
何十回と行ってる公園に行く楽しみで、他の家族たちはリラックスして楽しくしゃべってるし、一緒に行く犬も大はしゃぎしている。
公園への行程も半分を過ぎようとしていた。
家族の会話に父も加わり、私以外は家族みな楽しげだった。
そんな時、片側一車線の道路を走行中、後ろにいる家族が運転している父に呼び掛けた。
「お父さん？」
[なんだい？」と言って、父が後ろを振り向いた瞬間左の歩道から、地面をけって足で進めるキックボード型の遊具に乗った子供が、
我々の車の前に飛び出してきた。
緊張感をもって乗っていた私が、
「危ない！」と叫ぶと、前も見ていないのに父はハンドルを右に切り、反対車線に飛び出す前に急ブレーキで止まった。
さすがベテランタクシー運転手の技術と反応。
事故なく切り抜けた。
その後父は子供に当てないように、自動車を発車させた。
私の心臓はバクバクいっていたが、もう大丈夫ということはわかっていた。
あの強い不安感はこのことを予兆していたのだ。
その後公園では家族全員楽しんだ。
犬は誰より楽しそうだった。
あれからずいぶんたつが、その後あれほど強い不安感を覚えたことはない。
自宅が火事になった時でさえ。
火事に。