元カノと心スポに死にに行った話
投稿者:遺書 (1)
彼女はまだ何も理解せずになんなの?とか叫んでいて、でも私の必死さにたじろくように手をぎゅっとなんどか握り返してくれました。彼女のネイルのデザインがどんなものだったかを思い出しながら走らなければ、飲まれてしまうと思ったんです。
駐車場まで階段をかけ登って、トイレから一番遠い駐車スペースでうずくまりました。体力がなくて、起き上がることすら辛かったからです。
彼女の反応とか、言ったことは、ほとんど覚えていません。それくらい怖かったんです。
「なしたのさ」
「免許証と、携帯と、あと、多分財布だった」
「それが、だから、なしたっていうのさ」
落ち着いてよ。彼女はそう言いながら、年上の威厳もなくぼろぼろ泣いている私の背中をさすってくれました。
飲み物買ってこようか。そう言ってくれたんですけど、自販機はトイレの方だし、何より一人になるのが怖くて首を横に振って抱きしめさせてもらいました。
「死ぬために必要なものだけ持ってきたけど、取り返しがつかなくなるために全部捨ててからもっと深くまで行ったんだよ」
彼女は違うよと言ってくれました。事実乗り捨てられたような車もありませんでした。
ですが、車は撤去されたものの、死体や捨てていったあれらは見つからないままなのではないでしょうか。あのもっとずっと奥にいる、現世を捨てた誰かは、私たちが見つけるべきだったのでしょうか。
私はそのまま始発が出るまでバス停で待ち、運転手という人の存在に安堵したのを覚えています。寒さと道の悪さで擦った足先から暖かい空気が吹き込まれて、なんだか途端に現実味がわいてある意味では辛かったです。
彼女とはこの件も関係なく別れてしまいましたが、今でも彼女との思い出が蘇る度、あの夜のことを思い出します。
冷たくて寂しくて、陰鬱を誘う真っ暗な森の奥。
薄れた記憶の中で印象に残っているのは彼女の柔らかい手の感触と体温だけ。
あれらに気づかずに進んでいたら、私たちは何と対面したのだろう。
それとも全て思い過ごしで、考えうるようなことは何も起きていないのかもしれせん。
あれから何度かその滝には行きましたが、決して森の奥に目はやっていません。
どうか、もう既に誰かがあれを見つけてあげていますように。
札幌のあの滝ですね。
実際に亡くなっている人もいますし、夜は本当に恐ろしいところですよ。
ご無事で何よりです。
なしたっての方言で青森、秋田だと思ってましたが札幌なのですね。
ご冥福をお祈りします。