父のお迎え
投稿者:つくよみ (4)
これは私が大学生の時の話です。ある日私は体調が悪く、寝込んでいました。段々と熱が上がっていく感覚があり、あまりに辛かったので出掛けている母に電話をし、帰って来てほしいと伝えました。きつくて眠りにもつけず天井をじっと見つめていると、視界がぐるぐると回り始めました。そのまま私は意識を失いました。
ハッと目を開けると、私は自分のバイト先のお店の前に立っていました。帰らなきゃと思った私はポケットから携帯を取り出し、父に電話をかけました。
「お父さん、迎えに来て」
返事は無かったのですが、電話を切った瞬間、目の前に父の車が停まっていました。運転席には確かに父が乗っています。後部座席に乗ろうとドアを開けると、車内には雪が積もっていました。とても座れそうにありません。
「お父さん、これじゃ乗れないよ」と父に声を掛けると、父は
「そうか、じゃあ歩いて帰りなさい」と言い、すぐに車を発進させてしまいました。私は呆然と立ち尽くしましたが、どうしようもないので歩いて帰ることにしました。今度は母に電話を掛け、
「お父さんが歩けっていうから、歩いて帰るよ」と伝えました。すると母は
「気をつけて、早く帰っておいで」と言ってくれました。
しかし歩き出した私の視界はぐにゃりと歪み、また意識が遠のいたのです。
目を覚ますと、体温計を持った母が寝ている私を心配そうに見つめていました。どうやら私の熱は40度まで上がっていたらしく、すぐに病院に連れて行ってくれました。薬を飲み安静にし、すっかり熱が下がった後、私は変な夢を見たと母に話しました。それを聞いて母は、お父さんが助けてくれたのかもしれないねと言いました。
実は、私の父は数年前に亡くなっているのです。あの時父と一緒に車に乗っていたら…と思うと怖いのですが、父がわざわざ車に雪を積んでくれたのかと思うと少し笑えてきます。今でもたまに、あの雪の積もった座席をふと思い出します。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。