ある山道脇の塚
投稿者:赤壁二世 (13)
あれは夏の終わりが名残り惜しい秋口の事だった。
俺は当時付き合っていたB子と夜のドライブを楽しんでいたんだが、とある山道に入った時からB子の様子がおかしくなったんだ。
俺の事はA男とでもしよう。
「ねえ、A男。引き返さない?」
「えー、なんで?」
今にしても思えば、B子は血の気が引いた様に青ざめていたというか、本当に怖がっていたと思う。
それなのに俺ときたら「偶には山道も乙でしょ」とか楽しい彼女とのドライブで有頂天気味でB子の忠告なんて耳に入っていなかった。
人の世から隔絶されたような山道だが、時折夜空に浮かぶ月の様に設置された外灯が人の手入れが行き届いた場所という安心感を与える。
そして、アスファルトの続く限りガードレールが果てしなく弧を描く。
そんな山道だった。
何も無い山道を走っていると、外灯を除けば俺が運転する車のエンジン音とライトだけが文明の利器を感じさせてくれる。
「ねえ、これ何処むかってんの?」
B子がそわそわと両腕を抱きかかえるように擦りながら聞いてきた。
「んー、何処だったかな」
実は、俺は気の向くままに運転していたので何となく案内板に従い山道へ入っただけだった。
だからこの道が何処に繋がっているか知らなかったし、何かあれば引き返せばいいと気楽に考えて走っていた。
それにカーナビもついてるし、スマホもある。
最悪の事態は起きないだろうと高を括っていたのかもしれない。
「ねえ」
「ちょっと待って」
B子に急かされてとりあえずカーナビで現在地を確認すると、さほど地元から離れていない事がわかる。
そしてちゃんと山道もルートがあり、見知った隣の市に繋がっている事が確認できた。
「ほら、○○市。ここに出るっぽいよ」
「……出るっぽいって知らなかったの?」
意外と察しの良い彼女の視線から目を背け、俺は「何か音楽でも聴く?」と話題を切り替えるが、残念ながら拒否されて失敗に終わった。
ルート設定した後は暫く案内に従って走っていたんだけど、どうにもナビの調子が良くない。
というのも、時折、「こここ、このさ、ささ、先をををを、うううう、うう、うせ、うせ、つ……」の様に壊れたレコーダーの様に間延びが酷くなったかと思えば、画面自体もパソコンがフリーズし、処理速度が極端に遅くなった時のコマ送りの様になった。
「ちょっと何?どうなってんのこれ?」
「えー!嘘だろ買ったばっかなのに」
俺はどんなに操作しても壊れた様に音声を発してコマ送りの様に処理速度が遅くなったナビに向かって怒り気味に焦燥したが、どう弄っても治る見込みはなかった。
おっさんは恋のキューピッドの逆バージョンの存在かもしれないですね