前走車の後部座席

意味が分からずに頭を抱えていると、ふと運転席側の窓ガラスに目が留まります。
僅かに濡れた雨粒の痕の中に人の手より若干指先が長めの手形がついていたのです。
それはあの生き物が車内を覗き込んだ際に掴まっていた場所でした。

一先ず車に乗り込むと、私はカーナビを起動させて現在位置を特定し、どうやらここは私が普段から利用している山道で間違いない事を知ります。
そして、まるで夢から覚めた事を教えてくれるように、私の車の横を走行車が駆け抜けていきました。

しかし、現実に引き戻され冷静になった私は、消えたトンネルの事や謎の生き物の事で頭がいっぱいでした。

いや、それよりも気になるのが前走車かもしれません。

全てに於いて釈然としないまま私は帰路につきましたが、この日以降は特に何もなく平穏無事に過ごせている事から深く探らない様に決めました。

今にして思えば、あの前走車について行った事が間違いだったのかもしれません。
きっとあの前走車が私をあの恐怖体験に誘い出したのでしょう。

この体験以降、私は雨の日になると前走車を警戒するようになってしまいました。
皆さんも、夜中の運転にはお気を付けください。