笑う女

これは俺が高校生の時に体験した話。

実体験が故に特にオチもないんだけど、なぜかやたら不気味で印象に残ってる。

当時高校生だった俺は野球部に入っていて、中堅高くらいの強さだったけど毎日遅くまで練習してた。

その日も自主練という名の強制練習があって、学校出たのは10時くらいだった。

当時1時間くらいかけて自転車で家に帰っていた俺はその日もクタクタになりながら家に帰ってた。

途中、何駅か駅前を通るんだけど居酒屋が何軒かあって楽しそうな声が聞こえてた。特に沖縄料理屋の入口が全開で、沖縄の音楽がかかってて指笛何か聞こえたりしてて、疲れてたおれは「うるせーな」なんて思ってた。

居酒屋の前を少し過ぎて、だんだんと静かになっていった時、自分の進行方向の先にゆっくりとこちらに歩いてくる影が見えた。

暗い色のワンピースを着てる女の人で、すらっとしてて結構美人だったと思う。

ただ明らかに様子が変で、1人なのに

「あははははっ」

感じで凄い楽しそうに笑ってた。
20〜30m先だったけど、ハッキリ声が聞こえるくらいの声量で、ちょっと異様な光景だった。

最初は電話してるのかなって思ったんだけど、手は下にあるしそんな素振りもなかったから、
「酔っ払いかな」何て思いつつ、ヤバい人だったら怖いから、なるべく目を合わさないように通り過ぎようと思った。

10m、5mとドンドン近づいてたけど、相変わらず笑ってて、目を合わさないようにしてたんだけどすれ違う寸前にチラッと顔を見てしまった。

女の人と目が合った瞬間、何でかわからないけどピタっと笑うのをやめて、俺の方をジッとみたまま、

「ごめんね」

って女の人は言ってきた。

俺は意味がわからないのと怖いのとでパニックになりながら夢中で自転車漕いで家に帰った。

それからその女の人には会ってないし、何のオチもない話なんだけど、いまだにあの時の女の人の顔と声を思い出す時がある。