結核病棟の煙突
投稿者:えゆ (1)
短編
2022/06/03
19:38
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結核はその昔、死に至る病として市民を恐れおののかせた。感染力や医療のレベルは現在流行しているコロナの非にならず、結核患者は地域の外れにある結核病棟に入院を余儀なくされた。当時、回復しない死んでしまった患者は病棟の裏の大きな煙突がある火葬場で焼かれることになっていたそうだ。
その結核病棟は時代とともに閉鎖され、解体された。解体されたのは病棟のみで、遺体を燃やす焼却炉と煙突は最近になっても取り壊されなかった。
車を運転できるようになった私たちは心霊スポットであるその病棟跡を深夜2時も過ぎる頃に巡りに行った。すると煙突も跡形もなく無くなっていたのである。「とうとう全部取り壊しが終わったんだな」とつぶやきその日は冷たい空気が漂う中、帰宅した。
次の日、真昼間に病棟跡を見に行くと煙突は昨日私たちが車を停めていた所に素知らぬ顔で立っていた。昨日見つけられなかった煙突が実はあったのである。白昼夢を見させられているようで狐につままれたような面持ちで帰宅することになった。
帰宅し、車の後ろのナンバーを見ると煤けた灰がギッシリとこびり付いていた。洗車機に入れても擦っても擦ってもその灰は綺麗に落ちてくれず、必死に拭いた後、灰の形は手形になっていて2度目の恐怖を味わった。
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