誰?
投稿者:壇希 (11)
「実家にはちゃんと帰らないと駄目よ」
飲み屋で隣の席に座ったKさんは、わたしにそう忠告した。痛いところを突かれたわたしが、何かあったんですか?と尋ねると、こんな話を聞かせてくれた。
Kさんの学生時代は勉強漬けというよりも実験漬けの日々だったそうだ。入学と同時にそれぞれの班に割り振られ、与えられた課題を気が遠くなるほどあらゆる角度から実験し、得られた数字を元に天文学的な枚数の論文を仕上げる。入学からの4年間、そんな生活の繰り返しだったそうだ。
平日はひたすら実験の毎日で、休日には過去の論文を読み漁るという生活を送っていたKさんには、とても帰省する時間など持てなかったという。
それでも、週に1度は連絡をするという約束を、最初のころは守れていたという。しかし、怒涛の日々に押し流されるうちに、連絡を入れる間隔は徐々に開いていき、1回生の終わり頃にはその約束すら忘れてしまっていた。
そんなKさんが生家に再び顔を出したのは、家を出てから実に3年が経った頃だった。
Kさんの両親は共働きだったので、Kさんは幼い頃から鍵っ子だった。その習慣の名残なのか、実家を離れた生活を送っていても、実家の鍵はちゃんと保管されていた。
ガチャリと鍵を回すと、抵抗もなく扉は開いた。鍵を捻る感覚も、玄関から見える景色も3年前と変わってはいなかった。帰ってきたときはいつも誰も居ないのも、何ら変わっては居ない。
Kさんはリビングのソファに腰を下ろすと、テレビの電源を入れた。そのうちに母親が帰ってくるだろう。そして、夜も更けた頃に疲れた父親が帰ってくる筈だ。Kさんはテレビから聞こえる賑やかな声を聞きながら、いつの間にか寝入ってしまったという。
「誰?」
女の声が聞こえ、Kさんは目を覚ました。いつの間にか日はかなり沈み込んでおり、明かりを点けていなかった部屋の中は薄ぼんやりとした視界が広がっている。テレビはいつの間にか消えていた。
Kさんが振り返ると、部屋の扉の前に女が立っているのがぼんやりと見えた。しかし、どう見ても母親の姿ではない。
Kさんは反射的に立ち上がり女を正面に見据えた。
女は驚いたように目を強張らせているが、取り乱した様子はなく、落ち着いた声で再び「誰?」と尋ねてきた。女の傍らからは、小さないがぐり頭と二つの目が見え隠れしている。背後に子供が隠れているようだ。
「誰なのかね?」
今度は男の声がした。女の背後、扉の奥の暗闇から痩せぎすの男が出てきて、女の隣に並んだ。
その後を追うように、小さな子供が5人、小走りで部屋に入ってきた。女の背後に隠れていた子供も姿を見せ、横一列に6人が並んだ。皆一様にいがぐり頭をしてる。
「誰?」
女が一歩踏み出してきた。と同時にKさんの意識が途切れ、次の瞬間には、仏間で正座していたという。
Kさんの正面には、膝を突き合わせるように女が正座していた。その隣には男と6人の子供の姿もある。
日はさらに沈み、ほとんど視界の利かなくなった部屋の中では、それぞれの足元が僅かに見えるだけで、表情は墨汁を垂らした様に黒く沈んでいる。
「だれ?」
怯えるKさんに止めを刺すように、女の声が聞こえた。
「何よりも怖かったのは、その後も意識が飛んでいったりしなかったことね」
Kさんは正座したまま10分ほど耐えていたそうだ。しかし、時間が止まったように事態は動かず、耐えかねたKさんは叫びながら玄関を飛び出し、隣家に助けを求めたという。
警官とともに家へ戻ったときには、誰も居なかったそうだ。
「結局ご両親はどこに行ってたの?」
Kさんは曖昧に微笑むだけで答えなかった。人伝に聞いたところによると、Kさんの両親は現在行方不明になっているのだという。
え?両親不在の間に勝手に住み込んでた大家族ってこと?
見知らぬ女と子供たちは何者だったのだろうか?
なにか深いいわくがありそう
こういう怖い話好きです
論文の枚数を天文学的数字とはいわないと思う。
北の背乗りやろ⁉
両親は溶かされたんかな?
学費は背乗りが払ってたんかな?
自動振り込みかな?
知らんけど❗
omosiroi
学部1年から実験漬けで論文書きまくるなんて大学ないやろ
大学という名の宗教施設ですな。
昭和の背乗りを元にした話でしょうか