生贄団地
投稿者:邪神 白猫 (7)
長編
2022/03/31
22:02
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———ピンポーン
『——はい』
「あ。すみません、上の階に越してきた山下です。引っ越しのご挨拶に伺ったのですが……」
『…………』
「あの……?」
『……あ、はい。今出ます』
長い沈黙の後、目の前の扉から現れた主婦らしき四十代の女性。まるでいかがわしい者でも見るかのような態度に、俺は随分と不躾だと感じながらも笑顔を向けた。
「これ、つまらないものですが……。よろしくお願いします」
「……五階に?」
挨拶を返すでもなくそう言った女性は、菓子折りと俺の顔を交互に見ると訝《いぶか》しげな顔を見せる。
「あ、はい。山下です。……よろしくお願いします」
「…………わかりました、それじゃ」
憮然《ぶぜん》とした態度で奪うように菓子折りを受け取った女性は、それだけ告げると扉を閉めた。
「……っ!?」
そんな態度に呆気に取られながらも、気持ちを切り替えてその向かいのお宅のチャイムを押し鳴らす。
———ピンポーン
『——はい』
「……あ。上の階に越してきた、山下といいます。ご挨拶に菓子折りをお持ちしたんですけど……」
『…………。そこに置いておいて下さい』
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