友達を無くした話
投稿者:ざらつき (1)
短編
2022/03/10
03:52
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あれから10年以上が経った今、僕自身の考えは少し変質している。
あの6人目は外から来たのではなく、実は元々内側にいたのではないかと。
つまり、僕たちは地元の仲間”6人で”バカンスに出かけ、6人で美しい浜辺を楽しんでいた。泥酔のまま死屍累々の様相で眠りに落ちた部屋の中には、6人いた。
でも僕たちは、何かのきっかけで彼を永遠に失ってしまった。それは不慮の事故による生命活動の停止といったものではなく、存在を根こそぎ奪われる類の超自然的なものとして。
きっといなくなってしまった6人目とも沢山の思い出が堆積していたのだと思う。しかし、彼は彼にまつわる記憶と共に、存在ごと消え失せてしまった。
これは僕が友達を”無くした”話だ。
彼に何があったのかは分からない。天災のようなものに触れてしまったのかもしれない。あの夏我々に起こった事は、ある瞬間に失われた”彼を彼たらしめる凡ゆる情報”の痕跡、その残り香だったのではないかと思っている。
だからこれは、正確には、”恐らく”友達を無くした話だ。
あの日の5人がこの出来事を忘れ去ってしまったとき、本当の意味でいなくなってしまう友達。
思い出すたびに祈りを捧げる、もう何も思い出せない友達。
真っ黒な消失点になった友達。
僕はそう解釈している。
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斬新な感じの話で面白かったです
ありがとうございます!人生で唯一の不思議な体験を書かせてもらいました。