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ざらつきさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

友達を無くした話
短編 2022/03/10 03:52 2,312view

これは僕が友達を”無くした”話だ。
正確には、”恐らく”友達を無くした話。
そして、単なる解釈の話でもある。

学生時代のある夏、僕は友人と自分を含む5人で海へ出かけた。彼らのうちの1人のコネで、親の車を借り、運転を友人に任せ、会員制のホテルに宿泊する、あまりにも気楽な旅だ。
魔法など起こるはずもなく初日の海岸に取り残された僕たちは当然のようにアルコールを買い占め、部屋の中で銘々が溶けるように眠りに落ちた。

翌朝、決して早くはない時間ながらどうやら最初に目覚めた僕は、洗面所に向かい歯を磨き始めた。まだぼやけた思考のまま鏡を見つめて作業をこなしていると、すぐ右の扉の向こうにあるトイレから水洗音がした。恐らくは大きい方の水量だ。

「一番乗りで爆弾を投下することの是非…」などと考えていると、別の友人が洗面所に入ってきて、ふらふらとした足取りでトイレに向かった。誰か大師匠が既に前乗りしていることを伝えようとしたが、残念ながら自分の口は泡で満ちていた。
「まぁ恐らくは鍵を掛けているだろうし、どうせ気付くだろう」
そう思って対人関係を疎かにした直後、トイレの扉はスムーズに開いた。
アルコールの残った脳は信頼できない。

ホテルのチェックアウトに向け、荷物の準備を整えた僕たちは午後の予定について円陣を組み確認を進めていた。
垢抜けない田舎の少年たちには不釣り合いな夢物語の終わり際、ある友人がポツリと呟いた。
「昨日寝るときさ、ふと人数を数えたら、6人いたんだ」
何かが頭の中で発火するような感覚があり、僕は矢継ぎ早に答えた。
「あのさ、自分も今朝洗面所で…」

2人の話をつなぎ合わせたところで、それらに合理的な説明を加えることはできない。アルコールに浸した夜に起こったことなど、窓の向こうに広がる青空の前ではいかにも無力だった。
部屋を飛び出した僕たちは1時間も経たずにこの少し奇妙な出来事を忘れていたと思う。円陣の主題であるテーマの達成を目指す我々に一切の迷いは必要なかったからだ。
ただ海沿いで沢山の汗をかいただけの身体に午後の日差しが厳しく感じられてきた頃、ようやく我々は撤退に合意した。
みじめな少年たちにも、自分たちだけの思い出はあって良い。手近な方に声をかけて写真を撮ってもらうよう頼んだ後、レジャーシートの上に5台の携帯電話が踊り出した。

「あれ、5つでいいんですか?」

親切なカメラマンの言葉に全員の軽口が止まった。
それは単に思考が追いつかなかったが故だと思う。数瞬後には誰ともなく問題ない旨を告げていて、全員で同調を示した。なぜなら、どう考えても問題がなかったからだ。
それぞれの携帯電話に、全く絵面の変わらない5枚の写真が収まった。ただ、この話は心霊写真についてのものではない。

「なんであの時、台数を確認されたんだろうね」
帰路の車中で助手席に座っていた友人が切り出した。
「5人しかいないんだから5台で問題ないもんな。普通、台数を確認するときって、人数に対してそれが少ないときだよな」
何かに気付かされた僕たちに、海辺で訪れたものとは違う種類の沈黙が訪れた。

疲労困憊の身体を持ち寄ってなお、帰路は一連の出来事が指し示す可能性についての興奮が勝った。
ひと夏のほんのり怖い心霊体験。
遂にそれを経験してしまった我々は、解釈を次のように一致させた。
年の頃で言えばちょうど我々と同年代の──残念ながら既に亡くなっている──男性が、浮かれて楽しそうなグループに混ざりたかったのだろう。
幻の6人目と遊んだこの夏は、何か特別な感慨と共に胸に刻まれることとなったのだった。

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コメント(2)
  • 斬新な感じの話で面白かったです

    2022/03/10/09:05
  • ありがとうございます!人生で唯一の不思議な体験を書かせてもらいました。

    2022/03/11/15:10

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