夜中の大浴場にて
投稿者:ちゃーのすけ (1)
10年ほど前、20代前半だった私は当時働いていた店の店長を若くして任されていました。
その為中々休みが取れず、遠方にある母方の祖父母のお墓参りに行きたくても行けない状態が続いていました。
私はとてもおじいちゃんおばあちゃんっ子だったのもあり、お墓参りに行けない日々が気がかりでした。
ある日、本社の都合で店休日を取って良いと許可が出た為、数年ぶりに母と2人、母娘水入らずで温泉旅館に泊まりがけでお墓参りに行く事になりました。
私も母も2人きりで旅行に行くのは久しぶりで、とても嬉しかったのを覚えています。
少し遠方にある祖父母のお墓は、私が住んでる場所から車で約3時間程かかるのと、出発当日も少し仕事があった私は、現地に到着した際にはすっかり夕暮れ時になっており、先に温泉旅館でゆっくり過ごし、次の日にお墓参りをして帰ろうという運びになりました。
しかし丁度紅葉の時期だったのか、平日にも関わらず温泉旅館は混雑状態で、到着してすぐに温泉へは行かず(本当はゆっくり浸かりたかったですが)、先に食事を済ませました。
部屋へ帰り、久しぶりに母と会話が弾み、また疲れからか少し寝てしまい、気付いたら夜中の1時になっていました。
けれど、ここの温泉旅館は24時間大浴場を使える事を知っていたので「さすがにこの時間帯なら空いてるからゆっくりとお風呂に浸かれるね」と、母と2人で大浴場へと向かいました。
スリッパを脱ぐ所は誰のスリッパもなく、私と母の2人きりのようでした。
やった!と思った私は母と会話しながら大浴場へ入りました。
脱衣場では上から「ドスン!ドスン!ドタドタ!」と走ってるような音が時折していました。
「あぁ、あれだけ人がいると上でまだ宴会でもしてるのかな」と話をしながら浴衣を脱ぎ、お風呂場へと向かいました。
洗い場で身体をシャワーで洗っていると、大浴場内の天井からも「ドスン!ドタドタ!ドスン!」という音が鳴っています。
「あぁ、脱衣場から大浴場の上が宴会場なんだな」と思い、身体を洗い終わった私は母より先に広いお風呂へ浸かりました。
久しぶりに足が伸ばせる広いお風呂、また温泉なので疲れが癒されるなぁと思っていた最中、また上から「ドタ!ドタ!ドスン!」という音が聞こえます。
浴場内の時計を見ると1時半前…「うーん、酔っ払ってるのかなぁ、人数多いのかなぁ」と気持ちよく入浴している私にとって上から聞こえるドタバタ音が、段々と騒音に感じ始めました。
母が続いて入浴し、また会話しようとすると上から「ドスン!バタバタ!」
露天風呂へ移動すると、内湯の天井から「ドスン!ドスン!」と聞こえます。
さすがに母と私も鬱陶しくなり、せっかく2人きりだったのに..と思いつつも、明日もお墓参りの予定がある為、頭と身体を洗って出ようかという事になりました。
洗い場に私が座り、1つ空けて母が座りました。
私がシャワーに手を伸ばし、髪の毛にお湯を掛けた瞬間、
「バキィッ!!!」
と木の板を折ったような音が天井から鳴り響きました。
とっさに上を見た私はギョッとしました。
抜けた天井の板の隙間から、人の靴の裏と、ジャージのようなズボンの裾が見えたからです。
見た瞬間、ひゅっと引っ込みましたが、私は全身に雷が落ちたような衝撃で母に、
「ひ、人!人がいる!上に!人が!!」
と小声で伝えました。
母もギョッとして私を見て、びしょ濡れのまま脱衣場へと急いで逃げ、身体を拭くのもままならないまま浴衣を着てフロントへと走りました。
覗きだったらガタガタ音をたてないんじゃないですか?
当日の朝は仕事だったんじゃないの?
人が入れないのは警察が確認したんじゃないのか?
覗き魔の生霊ですぞ…
女湯を覗きたい一心で物質化したのですじゃ…