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不思議体験

門さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

深谷にて
短編 2021/01/07 13:49 1,864view
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知らない街を散歩してみるか、と思ったのは、残暑も身を潜めてきた秋口の事だった。
埼玉県の深谷を選んだことに特に理由は無かった、ただなんとなく、安くはない電車代をかけ深谷まで来たのだ。
思い立ったが吉日と出てきたまでは良かったが、その思い立ったのが昼過ぎだったため、ついた時には既に街は夕日に包まれようとしていた。
駅を降り立派な駅舎を観察していると、ショッピングモールまでのシャトルバスがある事に気付いた。渡りに船だ、これに乗りどことも知らぬショッピングモールに行き、そしてまた駅まで歩いて来ればそれなりの散歩になるだろう、そう思った私はバスに乗り込んだ。
ショッピングモールに付き、少々の買い物ののちに駅に向かって歩き出した。大まかに駅の方向に向かっていればきっと着くだろうと、地図を見ることは無かった。
見ず知らずの街を歩くことは好きだ、気付きや発見に満ち溢れている。自分には関わりのない町祭りの広告ですら新鮮な気持ちで読むことができる。
こういうのを郊外のベッドタウンと言うのだろうか、静かな住宅街を歩いている。建物の中には人の営みがあるのに、素晴らしいほどに町は静かだ。
やがて、一つの路地を見つけた。メインの道からTの字の形に伸びた路地は行き止まりになっていて、さながらドラえもんでのび太が逃げた先でジャイアンに追い詰められる袋小路のような形をしていた。
漫画でしか見かけないような見事な袋小路、思わずその行き止まりまで行ってみたいと思うのは自然な感情だろう。建物にして二軒分ほどの距離、その行き止まりの壁になにか落書きがある事に気付いた。

夕焼けで赤く染まる町、静かな住宅街、その袋小路の先にたどり着いた私が見つけた落書きは、
「ここは おばけがでるよ」
子供の字のように見えるそれに、何故か背筋が凍った。背後からの謎の圧迫感、振り返ることが怖い。
そして気付いた、静か過ぎる、音が無いのである。
車の音も、風の音も、鳥の鳴き声も、全ての音がその路地からは消えていた。
異様な雰囲気を感じ、私は一目散にその場を去った。路地を出る瞬間に気付いたが、路地の入り口の角に小さく赤い字で「犬」と書かれていた。
小走りで住宅街を抜け大きな通りに出た時に、町が音に溢れている事に気付いた。当たり前だ、今はまだ18時にもなっていないのだ。
何かを見たわけでも無い、何かに出会ったわけでも無い。気のせいだ、そう思い私は大通りを駅に向かって歩き出した。もう横道に逸れることはしなかった。
さて、帰りの電車は暇なものだ。そして今の時代は便利なものだ。歩いてきた道は覚えている、ストリートビューで確認すればいいではないか、そう考えた私は先程の路地をストリートビューで確認する事にした。

何度確認しても、そんな路地はなかった。

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