最後のあいさつに来た猫

私が子供の頃にあった出来事です。

ある日私は公園で子猫を拾いました。
生後3カ月程度で母猫の姿も見当たらなかったので誰かに捨てられてしまったのでしょう。
私は特に考えがあった訳でもなく、気が付けばその猫を家に連れ帰っていました。
私の家庭は皆猫好きで、普段から野良猫に餌をあげるなどしていたので
あっさりと家族にも受け入れられ、一緒に過ごすようになりました。

特に猫をかわいがっていたのは祖母です。

両親は共働きで私は学校に行っていたので祖母は昼間の間はいつも一人でした。
猫が家に来てからは祖母にとっては良い話し相手になっていたようです。

それから数年が経ち、祖母の体も弱っていき、普段はずっと布団で寝ているようになりました。
猫は相変わらず祖母に懐いていて、よく布団の上の足元で一緒に寝ていました。

ところがある日、猫が突然姿を見せなくなりました。
何カ月経っても猫は姿をみせず、家族全員が猫はもう帰ってこないのだと思っていました。
それからさらに数年が経ち、祖母は亡くなりました。

病院から帰ってきた祖母は棺桶に入った状態でいつも寝ていた部屋に置かれました。
ふと気づくと窓から家の中を見ている猫がいました。
数年前に突然姿を消した猫です。
この数年間、家の近所でも姿を見せることが無かった猫が祖母の帰宅に合わせて帰ってきたのです。
猫は家に入ることはなく、ずっと窓から祖母の部屋を見続けていました。
そしてまた、いつの間にか姿を消してしまいました。

その後、再び猫を見かけることはありませんでした。
猫は祖母が亡くなるまでどこに行っていたのか、その後どこへ行ったのか分かりませんが
祖母の死を感じ取り、最後のあいさつに来てくれたのだと私はそう思っています。