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不思議体験

たけひこさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

赤ん坊を踏みながら生きる。
短編 2026/02/03 21:14 68view

 私はタクシーの運転手でした。個人ではなく、小さなタクシー会社に雇われていました。自分で言うのもなんですが、結構仕事はできた方で、自分のタクシーを走らせる合間に、ニ種免許を取ったばかりの新人の教育を任されていました。

 数カ月まえのことです。その日は、愛嬌があって真面目な新入社員に、研修として、市内の経路、渋滞を避けるコツ、よく目的地として指定される場所なんかを教えていました。

 あらかた教えることが無くなった頃、目の前の街路樹の陰から女性が赤ん坊を道路に放り投げた様に見えました。私は制止しましたが、新人は赤ん坊に気付くことなく車で赤ん坊を轢きました。

 私はすぐさま車を止めさせ、車を降りました。左のタイヤと道路には無残な血の跡、赤ん坊を包んでいた布、おくるみって言うんでしょうか。真っ白な布がタイヤに絡まり真っ赤になっていました。

 もう、助からない、そう思った私はすぐに警察を呼ぶように新人に伝えました。しかし、新人は困った顔をするばかりです。そう、彼には、いや、赤ん坊は私にしか見えていないのです。

 私はおかしくなってしまったのかもしれません。その日、会社に戻るまで、3度、同じ様に赤ん坊を車ではねました。しかし新人は何も言いません。

 冷静に考えるとこんなに赤ん坊が道路に飛び出す筈もありません。やはり私だけがおかしくなったのでしょう。

 会社に着くと、乗っていた車以外の車両も、いつの間にか血まみれになっています。見るからに体の一部にしか見えないものもいっぱいこびりついています。私は気分が悪くなり早退しました。

 私は翌日、出社してこの幻覚が続いている様ならカウンセリングに掛かろうと思いました。ただ、翌日の朝、私は出社出来ませんでした。

 赤ん坊の顔とか触ったことがありますか?私は一時期、姪っ子のお世話をしていたこともあって知っています。赤ん坊の顔って簡単にへこむんですよ。だからこそ愛しいし気をつけて扱わないといけません。

 外を歩くと、ちょうど地面が赤ん坊の様にへこむんです。私は怖くて地面を見ることが出来ませんでした。思わず膝をつくと、地面に接した両膝のあたりもへこみます。

 私は地面を見ることも恐ろしくなって家に戻りました。家のなかに入ると、家のフローリングもなにやら柔らかく感じます。

 これはもう無理だと思い、会社に相談して、病状が治らなければ退職すると伝えました。色々と骨を折って頂きましたが、結局は休暇を消費したあと、退職しました。

 私は痩せています。だけども骨格は大きくて、要するに図体の割には軽い訳です。

 だから布団に横になったとき、立っている時と比べてあまり地面がへこまなくなりました。

 ただ、地面を見るのは怖いです。私はもう横になって起き上がらないでおこうと思いました。

 いまは電話で病院のカウンセリングにかかっていますし、公共のサービスのお世話で介護もしていただいています。
 
 私は自分がおかしいことがわかっています。そこら中が赤ん坊なわけがありませんから。でも、だからといって赤ん坊を踏みつけながら歩けるほど強い人間でもありません。

 だから今私は、大騒ぎせず、時折カウンセリングを受けながら、横になっています。

 一度精神科医の先生がうちに来たときは先生の足元に沢山こびりついた赤ん坊の一部を見て声を上げてしまいました。それ以降は、更に、目隠しをするか天井だけを見ながら仰向けで過ごしています。

 このまま、あまり食べず、赤ん坊を潰さずに生きていこうと思います。この話を打ち込んでいる今は仰向けでスマートフォンの画面を触っています。赤ん坊の側頭部みたいに柔らかいスマートフォンです。

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