「ええ、幽霊とかが出てくるような話じゃないし、もしかしたら最初から最後までおかしなものとかが何も関わってない、というかその可能性の方が高いと思うんですけど、そんなんでよければ。」
そう語ってくれたのは、最近社会人になったばかりのAさんという男性でした。
「高校二年生の頃、私はクラスメートの四人グループでいつもくだらない話をしては笑い合ってました。
ある日、そのグループのBってやつが、いつもはかなり明るいやつなんですけど、その日は無口で、心なしか表情も暗くて。
グループの別のやつが『なんかあったのか?』って聞いたんです。
すると、Bが『実はさ、』といって以下のことを語り出しました。
『昨日の学校帰りにさ、結構遠くの景色を歩きながら見ていると、団地の屋上に立ってる女が見えたんだよ。
安全柵を乗り越えたところの、建物の淵に突っ立ってたんだ。
うわっ、危ないなって思ってさ、女のこと見てたんだ。
すると、女がこっちを見てな。
いや、遠いし逆光だしで女の目の動きとかは全くわからないんだけどさ。
明らかに体をこっちに向けて、両手を大きくブンブン振り出したんだ。
しかも、通ってる道にはおじさんと若い女の人、小さい子もいたんだけど、全員急にぴたりと立ち止まって、おじさんと若い女は無言で屋上の女にスマートフォンを向けだしてな。
子供は屋上を真顔で微動だにせず見つめてな。
まるで、それが合図だったみたいに。
それかタイミングを完全に予見していたみたいに。
屋上の女が飛び降りたんだよ。
遠くだったから衝突音とかは聞こえなかったけど。
嫌だったのは、そのおじさん、若い女、子供がなんのリアクションも取らなかったことだな。
ただ真顔でそれを見てたんだよ。
俺は、その団地を通る道を避けて家に帰ったね。』
その場の空気が一気に悪くなるのが感じられました。
他のメンバーが怖い、気持ち悪いといっている中、私は別のことを考えていました。
『Aの家ってこの学校の近くだろ? その帰り道でそんな飛び降りの話があったら、少なからず俺らの耳にも入ってくんじゃねえの? その団地ってどこ?っていうか遠くで逆光だったのになんで飛び降りたのが女だって分かったんだよ。』
Bは、学校の近くの名前くらいはほとんどの人が聞いたことのある団地の名前を言うと、
『疑うんだったら証拠を見せてやるよ、その時の写真を。女だって分かったのは写真を拡大したからだ。』
といってスマートフォンの中の一枚の写真を見せてきました。
そこには手ブレが酷いものの、確かに団地と思われる建物と、人間と言われたらそう見えなくもない細長い影が上の方に見切れて宙に写っているのが確認できました。

























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