「ちょっと、ちょっと、ケンタくん?」そう声をかけてきて、後ろから肩をたたいてくる女の人がいた。
初めてこの女の人に声をかけられたのは小学3年生の頃だったろうか。冬休みだったと思う。家族旅行で兵庫県の上の方に温泉に行ったときだ。
今でもその派手な花柄はとても覚えている。黒字に白やオレンジの花柄のワンピース。そして紙の長い女の人。不思議と顔は覚えていない。花柄の印象が強いせいだろう。「私のこと覚えてる?お母さんと仲がいいのよ」と言われたので、「いや、覚えてないですけどー、お母さん呼んできましょうか?」と伝えると、「いや、いいのよ。また今度連絡するから」と言われ、そのままどこかに行ってしまった。
ぼくは前の方を歩いていた母から「ケンター、あんた早くしなさい、すぐどっか行くねんからーちゃんとついてきなさい」と怒鳴られ、今あったことを伝える間もなく旅行が終わってしまいました。そんなことも忘れて中学生になったころだろうか、家族、そして従兄弟たちとハワイ旅行に行ったときの話だ。ぼくは初めての海外旅行ということもあって、かなり舞い上がっていたのを覚えている。初めてのハワイは空気からすべてが違って感じるほど新鮮で、空港の空気感も当時の僕からすると衝撃を受けたことを覚えている。
ホノルルのホテルへと向かい、ロビーでチェックインをするために待っており、みんなはアチコチ行き、ぼくは荷物番として従兄弟と2人で待っていると、「ケンタくん?久しぶり。おばちゃんのこと覚えてる?」と声をかけられました。ふと顔をあげた瞬間、小学3年生の時の記憶が一気に膨れ上がり、思い出したのです。そこに立っていたのはあの時兵庫県の上の方に旅行に行ったときの花柄のワンピースを着た女だった。あの頃からはもちろんぼくも精神年齢もあがっており、色々考えることもできるようになった。だからこそ思いました。なんかおかしい。この女の人はなんかおかしい。4年前とまったく同じワンピース。しかも、まったく同じ声かけ。ぼくは5メートル先のカウンターでチェックインしてる母の背中を見つめ、指をさした。「お母さんならあそこにいるんで呼んできます」というと女は「んーん、いいの、また連絡するから」と言うのです。なんだか怖くなり、ぼくは女の言うことを無視して母親の元に走っていき、「お母さんの知り合いおるで、早く来て」と伝えました。母はきょとんととして、どこ?と聞いてきたので、荷物のとこに指をさすともう女はいませんでした。ほどなくチェックインも終わり、母親と荷物のとこに行き、一緒にいた従兄弟に「なー?花柄の服の人いたやんな?」と問うと「は?何言うてるん、おれと喋ってたやん」と言うのです。その後も晩御飯中に女性のこと、花柄のワンピースのことを母やまわりの家族やいとこに言いましたが、笑われて終わりました。明らかにおかしい。ぼくはその頃、雑誌のムーを買ったりするなど超常現象的なことにはまっていたので怪しみ、次現れたときのために特徴をつかんでおくことにしました。と、その時フッとおもいました。小学3年の冬に出会ったとき、女は寒いのにワンピースだった。その時は興味もなく流していたから気がつかなかったが、、、そうか、、やはりあちら側の人だと確信を得ました。
それから時は過ぎ、大学生になった頃、その女は三度現れました。夕方、部活の集まりが行われてるとある教室に向かう誰も歩いていない廊下にその花柄のワンピースを着た女はいました。初めて会ってからもう何年だ、10年以上経っている。だけど女の見た目はまったく変わってなかった。そして、この場所。明らかに幽霊だ。ぼくも見た目が変わっている。ぼくだと気がつくはずもない。そう思い通り過ぎようとすると、「ケンタくん、久しぶりー。元気ー?」と聞かれたので無視することにしました。すると後ろから「ケンタくん、久しぶりー。元気?」とまったく同じトーンで聞かれました。ぼくは走って部活動がおこわなれてる教室に向かって走りました。そして、あの角を曲がったら教室だと思い後ろを振り返るともういなくなっていました。
はーーーと深いため息をして、、膝に両手をつき、下を見て、「なんなん、お母さんおらんて、ここには」と1人で呟くと、「あなたに会いに来たの」と目の前から聞こえました。恐る恐る前を見ると、花柄のスカートの裾が見えました。よくみるとこの女、裸足。今まで見てなかった。顔をあげたらアカン、直感的にそう思い、左斜め前に部活動の教室があることを確認すると、サッカーのフェイントのように左によけて、そのまま扉のノブをまわし、教室に入りました。勢いよく入ったせいか、みんなポカーンとこちらを見ました。教室の前で喋ってた部長から「おい、遅刻。でもよかったな。とりあえず座れ」と言われました。ん?部長。今、「よかったな」って言わなかった?少し疑問に思いましたが、部長なりの優しさなのか?と思い、その場は部活に集中することにしました。数日たったころ、部室にいると部長が1人で部屋にいて、書き物をしていました。「お疲れさまで~す、部長」そう言ってぼくも椅子に座ると、部長がおもむろに言うのです。「もう大丈夫ちゃうかな?」と、、、「何がですか?」と聞くと、「いや、、おまえ、この前、花柄のワンピースの女に追いかけられてたやろ?」と言うのです。びっくりして「え?見えてたんですか?」と返すと、部長は「いや、完全に見えてたわけちゃうけど、教室の扉にガラスついて外見えるやろ?あそこからふと外見たら、しゃがんでるお前を見下ろす花柄のワンピースの女が見えたからさ」、、、と言うのです。「え?え?えーーーー?すごい部長。正直なよなよして今まですごいと思ったことないけど、、ほんますごい」と思わず口が滑ってしまいました。「おまえなー」と呆れて笑われましたが、、部長曰く、詳しいことはわからんけど、、おまえのことただただ見守って来たんちゃうか?まあ、もしかしたら、お母さんと昔ほんまに仲がよかったんかもやけど、、それでぼくが生まれたときなのかタイミングはわからんがたまたま会って、感情移入したんちゃうか?と言うのです。
「なるほどーーそういうのあるんですねー」と言うと、部長はたんたんとしながら「お前もあるやろ?あの犬可愛いなー」みたいな。と言うのです。んーなんかよくわかったようなわからんような。「で、部長。さっき言ってた、もう大丈夫ちゃうか?」ってどういうことですか?と聞くと、「いやいや、お前もう何歳?またなー」と言うと部室を出ていきました。
ん?あーーそうか20才ってこと?まさか、大人になったからってこと?なんかこの理屈もよくわからんけど、、部長の言う通り、花柄のワンピースの女はそれ以降、現れることはありませんでした。
それから時をしばらくして、ぼくが41才の時、母は闘病の末亡くなりました。ぼくは母が持っていた箱に入ったすごい量の写真を見つけ、一枚一枚見返していました。母が子供の時からの写真でした。そして、僕が生まれたであろうときの写真がありました。そしてある写真に目が止まりました。それは会社の忘年会か何かの写真でしょうか、ホテルの会場で行われたような飲み会の集合写真。集合して、前には会社名が記されたボードが置いてある。それを見てぼくは驚きました。その集合写真のハシッコにあの花柄のワンピースの女がうつっているではありませんか。ニコニコしており、とても綺麗な女性でした。母がなくなり、この女性が誰なのかはわかりませんが、、、見守ってくれてありがとうごさいます。ぼくはその写真に手を合わせ、そっと箱にしまいました。






















お化けは怖い。怖いけど、優しいハイカラな別嬪さんなら、幽霊でもちょっと素敵ですね。