お前も一緒に来てや

俺の親父がまだ一人暮らしするような若い頃の話
安い給料の会社で働いて、ボロボロなアパートで
毎日暮らす日々。
そんな親父の唯一の楽しみは、友人のＡと
電話して雑談する事だった。
「聞いてや！この前ぼったくりあってん！」
「えぇっ！？ほんまかいな！」
「１時間飲み放題で２０００円って聞いたのに
会計の時23000円やってん！おかしいやろ！？」
「飲み放題２０００円！？怪しいやんけ！」
こんな感じで色んな話をしているだけだった。
そんなある日Ａから電話が来た。
「おー、もしもしどないしたん？」
「タカシ…どないしよ、会社倒産してしもた…」
タカシは親父の名前
「は！？うそやろ！？」
「ホンマや…どないしたらええんや…
それ彼女に言うたら…振られてしもて…」
「彼女ちゃんにも振られたん！？
どないすんねんお前！やばいやん！」
「あぁぁぁ……家賃も払えへんくなるし…
結婚考えとったのに…」
Ａは今にも泣きそうだった。いや泣いていた
親父はただ慰めることしか出来なかった。
それから数日後、何度か会い飲んで
慰めていたが、Ａが元気を取り戻すような
素振りは無かった。
それから電話をする事も会うことも、

なくなってしまった。
Ａは家に引きこもっているらしい
その1ヶ月後だろうか。仕事から帰り
つまみを食べていると、電話が来た。
Ａだった。
「Ａ！！心配したんやぞ！大丈夫か？」
「ザザーーッ…ザー…ザーッ…」
「Ａ？おーい？大丈夫か？」
電話からは、砂嵐のようなノイズ音しか
聞こえなかった。
しばらく話しかけ続けるが、本人からの
返答はない。すると
「ジャバッ…！！ゴブッカポカポカポッ…！」
次は奇妙な音、水の音？が聞こえる。
また親父はＡに話しかける
だが返答はない、親父も段々と苛ついてしまった
「おいなんやねん！何したいねんお前
もうええわ、切るで」
その時だった。
「ウウウゥーー！！！！！！！！」
籠もったＡの様な声が聞こえ、電話は途切れた。
親父も意味がわからず、不貞腐れ寝てしまった。
朝、騒がしくインターホンがなった。
玄関を開けてみる。
「おはようございます、警察の者ですが」
「……へ？？」
警察がいた。そのまま警察は続ける
「昨日深夜頃ですね、ご友人のＡさんが

お亡くなりになりました。」
「…は、？え？な、なんでですか！？！」
「自殺です…、海に飛び込まれたらしくて、
朝発見しました。」
電話が来た時間が、深夜頃、
Ａが自殺した時間が、深夜頃。
親父は色々な感情が混ざった。
警察からの話がいろいろあったが、
ほぼ頭に入らなかった。やっと解放され、
玄関を開け、家の中へ入ると
膝から崩れ落ちた。
親父は一人の友人を失ったのだ。
冷たかっただろうな、苦しかっただろうな
助けてやれなくて申し訳ない。とても辛かった。
あの電話から聞いたノイズの音、水の音、
Ａのものと思われるあの籠もった声。
おそらく、飛び込む前に電話したのだろう
そしてそのまま、飛び込んだのだろう。
親父はその場で涙を流し続けた。
友人が自殺する時の音の恐怖と、
友人を失い、助けれなかった悲しみで。
そのまま震える手で、昨日の電話の履歴を開き
録音機能の付いたアプリから会話を聞く
気付けば、Ａの籠もった声が聞こえた所を
再生していた。友人の声を本能的に
最後に聞きたかったのだろう。
静かな部屋で、音量をMAXにし、流す。
あの籠もった声をよく聞く。せめて最後の
言葉だけでも、聞き取れるように。