先客
投稿者:天禰 (3)
前置きに、前提として僕はオカルトに関する知識が少しある。その事を踏まえ、所々に嘘を交えて話すとしよう。
僕は元カノのことを恨んでいる。浮気されたとか、気持ちを踏みにじられただとかではない。単純にあいつが僕を物として認識していたからだ。
何をしてもそうだった。家出して1週間泊めたときも、向こうがたの家族と話した時も率先して行動したのは僕だ。アフターフォローもした、不登校の改善にも努めた。だと言うのに奴は僕をそう言うものとしか認識していなかった。
先に言ってしまえば奴はメンヘラであった。僕のことなどお構いなしに会おうとしてくる。あの頃は休みの合間を縫って会ったりもしていたが、ふと体調を崩すときもあった。その時でさえ、奴は「そうやってドタキャンして」と騒ぎ立てる。はっきり言って限界だった。
さて、かく言う僕も精神は弱いほうであり一時期は自傷をしていた程である。だが、久しくその症状はでていなかった。
奴と別れることを決心したのはその自傷が再び発症してしまったからである。精神の限界を悟った僕は随分と酷い振り方をした。曰く、奴は数日号泣したそうだ。これで僕も自由だ、と思っていた。
奴の異常な行動はしばらく続くことになる。
まず、ネットに名字を晒された(削除済みではある。)。悪気があったわけではない。ただ偶然と言うわけでもないのが腹立たしい。僕の名字は割りと珍しい部類であり、尚且つ地域も晒されているため特定は容易いだろう。
なんとかその件に関しては事なきを得ている。しかし、ことあるごとに僕を引き合いに出すことに苛立ちを募らせついに僕は決めたのだ。
呪ってやろう。
呪いにも色々な方法がある。有名どころは丑の刻参りだろうが、そんな手間のかかることはできない。かといって、地獄に七回落として頭を割り続けるなんて呪詛を吐くこともできない。だから僕はもっと簡単な方法がないか調べた。
結局たどり着いたのは、奴の悲惨な未来を想像し続ける呪いとも言いがたいものではあった。だが、それだけで少し心が晴れるのでしばらく続けていた。
ある日、いつものように目を瞑りその様を想い描いていると急にそいつの家の裏庭が見えた。直後、そこに張られていた雑草対策のシートが剥がれるビジョンが見えそれだけで死を悟った。
現実に引き戻される。恐怖していた。久方振りの感覚であった。あれは守り神なんて物じゃないと、早々に理解する。あれは「先客」だと。
おおよそ、普通に暮らしていればあんなものが憑くわけがない。だが、あの家が普通ではないのは知っている。何度かお邪魔したことがあるのだが、あの緊張感の中、人が暮らすのは少々厳しいものがあるだろう。そもそも、あそこには何体か「居る」のだ。だが、どれも寄せて集めたようなもの。強いて言えば1階に居るときは天井から何かがこちらを見ていると言うこと。だが、それも有象無象に過ぎないと思っていた。
そんな1件があって奴とも連絡を取らなくなり、交流はつい最近まで途絶えていた。
そんな中送られてきたメッセージに愕然とした。
【相談があるんだけど、最近声が聞こえる】
奴も幽霊の類いを信じている部類なので僕に相談が来るのもおかしくないだろうと、適当に話だけ聞くつもりだった。曰く男や女の声で嘲笑ったり、ヒソヒソと話している声なのだそう。若干楽観視し、物は試しに奴の家の間取りを頭に思い浮かべたときあの天井に張り付いた奴が見えた。
女の顔をしている。確かにそう認識できるが、身体は荒い画線のように細い。そして四つん這いで天井に張り付いてこちらを見ているのに、顔の向きは逆さではなく正常なのだ。首が180度回っている。
ああ、この人も「先客」なんだ。
その見えたビジョンに恐怖する。なんだかんだ、呪ってやろうとか思っていたがあんなのが居るのでは時間の問題だろうと、そこで関わるのを辞めたのだった。
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