家具の買い取り
投稿者:嵐山ノキ (3)
中古品買い取り業者を営むTさんが、あるお客さんのところに行ったときの話。
お客の両親が住んでいた実家を取り壊すこととなり、家にあったタンスや食器棚などを買い取ってもらえないかという依頼の電話があったのだ。
日曜日の昼にそのお客さんのいる家まで向かったところ、Rという男性が出迎えてくれた。
「あは、よろしくお願いしますね」
Rさんは小太りでなよっとした物腰という印象をTさんは持ったが、穏やかそうであるためスムーズに話がまとまることを期待した。
さっそく買い取りを希望されているタンスを見るが、なかなかの年代物。中に入っていたであろう着物などはすでに専門業者に渡し済みだという。
次に食器棚。こちらはほとんど使われていないであろう食器が上の方に並んでいた。
「いただきものなんですけど、来客があるわけでもなくて使わなかったんです」
Rさんからの説明がある。あとはマッサージチェア、古い電話の親機や米びつなども見ることになった。
この家にはテーブルがなかったため、Tさんは床に座って査定結果を話すこととなる。Rさんがお茶を出してくれたがこれも床に直置きだ。
「ええと、それでは査定させていただいた内容なんですが」
Tさんは手書きした書類を見せようとしたところで、ある物に気づいた。
Rさんの後ろに置かれている小さなボックスである。子ども用の衣装ケースと呼ぶのが適切であろうか。
シールがペタペタと貼ってあるのを見るに、やはり子ども用なのだとTさんは思った。
「どうしたんですか?」
Rさんに聞かれる。Tさんは疑問をそのまま口に出した。
「あの、そちらの衣装ケースでしょうか。お子さんがいらっしゃるのかと思って」
「ああ、僕のです」
あっさりと言われた。
「そ、そうですか。物持ちよく使っていらっしゃるんですね」
少し不可思議に思いながらTさんは言った。
「ええ、今でも使ってます」
まあ、機能的に使えるのであれば捨てることもないかと考えつつ、仕事に戻る。
「すみません、話が逸れて。ええと査定なんですが、タンスも食器棚も、申し訳ありません、ちょっとお値段が付きませんでした」
「えっ?」
Rさんが意外そうな声を出す。あちゃー、揉めそうな展開だとTさんは予感したが、視界に何か動くものが見えた。
それは向かい合うTさんの後ろ。子ども用の衣装ケースである。そのシールが1枚、上半分がペロッと剥がれたのである。
それだけならばどうということもない。たまたまそういうタイミングだったのだろうと解すだけであった。
「その、マッサージチェアも故障されているようでして、こちらも買い取りはできませんで、業者にゴミの日に出していただくことになるのかと」
「えっ?」
怖くはなかったですが、不思議な話しでおもしろかったです。
シールに生命が宿っている??