排水溝の長い髪
投稿者:松原 尤介 (1)
これは僕が幼い頃に自宅で経験した、怖かった体験の話です。
僕の家は両親共働きで、夜は一人で寝ていました。両親は申し訳なく思っていたようですが、僕はひとりが好きだったし、ゲームもたくさんできるのであまり気にしていませんでした。
ある日、お風呂に入っていると水が流れなくなりました。溜まった髪の毛が排水溝に詰まったんだな、といつものように掃除をしようとしたとき、ギョッとしました。
大量の長~い髪が詰まっていました。
母親はショートヘアだし、姉妹もいません。
「誰の髪なんだ、、、」とも思いましたが、僕が学校に行っている間に母が友達でも呼んだのか、と自分の考えに納得して気にせず片づけました。
しかし、その日から洗面所にも台所にも長い髪が詰まって流れなくなることが多発しました。
母に心当たりがあるか聞いても、「誰かを家に招いた覚えはない」と返され、しまいには父の浮気なのではないかと疑いがかかり、「そんなことはしていない」と父は激怒し、家族の雰囲気がみるみる険悪になっていきました。「誰かが隠れている?」なんて考えも過りましたが、家は一階建てで狭いし、そんな場所はありません。
もし、家族の誰も嘘をついていない場合、結局あの髪の毛の説明がつかない事実に少し恐怖を覚えました。それからは夜遅くまで起きていることが怖くなり、すぐに寝室に行き眠くもないのに頑張って寝ていました。
そんなある夜、いつも通り寝室で寝ていると、リビングに置いてある固定電話が鳴りました。「ビクッ」とし、鼓動が高鳴りました。怖くなり無視して寝ようと思いました。留守電ならここからでも聞こえるしそれを聞けばいい、と。
もう切れるだろうと思った時、「ガチャ」。
誰かが受話器を取りました。家には僕以外誰もいません。
それなら今、電話を取って話しているあいつは誰?冷や汗が止まらない、体が動かない、寝てる場合じゃない、とにかくパニックで布団にもぐっていました。
まだ話しているのか?それとも切った?切った音はしてない、気付かなかった?いま「あいつ」はどこにいる?こうしてから、どのくらい経った?考えて考えて、震えているうちに朝になっていました。気絶するようにいつの間にか眠っていたようで、朝日で目が覚めました。
その状況に気が付いた瞬間、夜中のことを思い出し、一人ではいられなくなり両親が居るはずのリビングに向かって走りました。
「何、どうしたの」と母がきょとんとした顔でこちらを見ています。「てかあんた、昨日床濡らして寝たでしょ。」濡らしてない、なんて言葉を吐く余裕はありません。ふと、固定電話を見ると、受話器には長い髪が二本、絡まっていました。
怖っ!
誰かが、居たのは間違いではないようですね。