犬の人形とおばあちゃん

雑貨屋で働いています。
毎日いろんな方がお店にいらっしゃいますが、その中で今でも不思議だと思う方の話を今日はさせていただきたいと思います。

ある日小柄で痩せたおばあちゃんが来店されました。ピンクを基調にしたかわいらしい方で、ニットの帽子をかぶっていました。髪の毛は長めの白髪で、お世辞にも手入れをしているとはいえずごわっとしていました。妙なのが大事そうに胸に抱いたトイプードルの人形です。
おばあちゃんはサングラスのコーナーに立ち止まると、私の方を見ました。私は接客しようと近づくと「このサングラスは売っていただけますの」と言われました。「ええもちろん、販売しておりますよ」と笑顔で答えると、「でも合うのかしらねぇ」とおばあちゃんは言うのです。
「この犬が使うんだけど、サングラス使えるのかしら？」
ああ、このおばあちゃんは普通じゃないんだと、その時気づきました。商売柄いろんなお客様が来店されるので私も今更驚きません。落ち着いておばあちゃんを気づ付けないように話を合わせるように対応しました。
買っていただければお店としては利益となりますし、お客様もそれで気持ちが落ち着くのであればWin-Winでよいのではと思ったのです。

「ああ、こちらに小さめのサングラスがありますよ」と言いながら子供向けのサングラスを案内しました。それにはおばあちゃんも納得してくれたようなのですが、何か一人で考え込んでいる様子でした。
そしてぼそりと言いました。
「おかしいわよねぇ。この子、ぬいぐるみなのに、欲しいなんていうのよ」
私はその瞬間ゾッとしました。
おばあちゃん、犬の人形をきちんと人形と認識していたのです。自分がおかしいことを言っているのを自分でもわかっていて、私に相談を持ち掛けていたのでした。
認知症で本気で勘違いしているとか。それならば私もなんとなく分かる気がするのですが、自分で自分が狂っているのを認識しながら生きるというのは、どんな気持ちなんだろうと考えると怖くなりました。

結局おばあちゃんはそのままサングラスを買わずに帰っていきました。その後、見かけることはありません。いわゆるヒトコワですが、今でも時々思い出しゾッとする体験です。