人形は祖母で娘
投稿者:あらんどろん (1)
これは五年ほど前、僕が大学生のころのお話です。
僕はある日、彼女のカナコの家に行きました。カナコの家は普通のマンションで、僕は少し緊張しつつ部屋の中に入りました。
「お邪魔しまーす……」
カナコの部屋は小綺麗に整えられていて、可愛らしくもありました。しかし、その中で一つだけ異色を放っているものがありました。そちらに目をやると、可愛らしい人形が置いてあります。その人形は青い目に茶色い髪の毛、そして淡い青のドレスを着ていました。そんな感じで、見た目は可愛らしいのですが、どうにも雰囲気がおかしいのです。部屋の中で人形だけ僕に敵意を持っているようでした。
そう感じて人形から目が離せなくなっていると、人形の目が突然ギョロッと動いたのです。僕は思わず声をあげてしまいました。
「うわあっ!」
「何?どうしたの?」
カナコが慌てた様子で聞いてきます。
「いま、あの人形が動いたんだけど」
「なにそれ?」
カナコは冗談だと思ったのか、茶化すように言ってきました。しかし僕は体中から汗が流れ出るのを感じていました。
「マジだって」
ただならぬ雰囲気を感じたのか、カナコは「マジ?」と聞いてきました。そしてカナコは人形を押し入れにしまってくれました。それから少しは寒気が止まりませんでしたが、しばらくするとすっかり人形のことなんて忘れてしまって、カナコとの時間を過ごしました。
その夜のことです。僕はカナコと同じベッドで寝ていました。すると、いきなり呼吸が苦しくなって目が覚めてしまいました。僕は上体だけ起こして周りを見渡します。
カナコの方を見ると、カナコの上で何かが動いていました。目を凝らすと、あの人形だったのです。人形がカナコの上に立ち、踊っていました。僕はあまりのことに、全く動けなくなってしまいました。
人形は体の中に綿が詰まっているからか、肘や膝に当たる部分が上手く曲げられないようで、上手く踊れないようでした。
僕の脳みそが段々と状況を理解し始めて、体が動くようになってきたときのことです。突然人形が踊るのを止めて、僕のほうをゆっくり振り向きました。僕はまた呼吸が止まる思いをしました。
突然、声が聞こえました。
「カナコは私のだああああああ!!!」
耳がつぶれるかと思うほど大きな声でした。僕はその声に耳を塞ごうとして、なぜかその瞬間、周りが明るくなりました。そして人形は気付くといなくなっており、僕は周りに何もいないのに、ただ耳を塞いでいました。
「何してるの?」
カナコが起きて、そう言いました。
「いま、人形が……。え、夢?」
僕には夢には思えませんでした。しかし、そのあとに何かが起こるでもなく、僕はまた普通に暮らし始めました。
それから五年が経ち、現在。僕とカナコは結婚し、娘が産まれました。娘はすくすくと成長しています。しかし、最近おかしなことが起こったのです。
僕が仕事を終え家に帰ると、電気の点いていない暗い玄関で娘が待っていました。
「ただいま!」
「……」
娘は一言も喋りませんでした。どうしたのかと思い、娘の顔を覗き込んでみると、何か違和感があります。しかし暗くてよく分かりません。
僕は電気を点けると、仰天してしまいました。娘の黒かったはずの髪の毛は茶色に、同じく黒かったはずの目は青色になっていました。僕は思い当るものがありました。あの人形と同じなのです。
一度ご家族でお祓いした方がいいと思います。