築山から落ちて人が変わった男の子の話
投稿者:アイス (1)
小学校の校庭によくあった遊具の築山。
私とその男の子は、毎日昼休みになると一目散に築山まで走り、築山の斜面を滑り降りたり、頂上まで一気に駆け上がる時間を競ったりしていました。
その築山はコンクリートでできており、頂上には地面まで続く穴があったり、ボルダリングでよく見るようなグリップがあったりと、子供心をくすぐる楽しい築山でした。
男の子は当時、お世辞にも出来のいい子とはいえない子でした。
運動能力もそれほどなく、かといって勉強ができるかといえばそうでもありませんでした。
しかし、彼は底なしの明るさを持っており、それゆえに私を含め数人の友人と楽しく遊んでいたのです。
ある日のことでした。
いつものように、私と男の子は築山に走っていきました。
男の子は私に、「今日は最初に頂上まで登る競争をしよう!」と元気に言いました。
私もそれに頷いて、築山の頂上を目指します。
最初に築山にたどり着いたのは男の子でした。
私が男の子の後ろについて築山を登っていくと、ある違和感に気づきました。
いつもは、築山の頂上には、落下防止の柵があります。
目立つように、赤いペンキで塗られている柵でした。
それがその日は、よく見えなかったのです。
正確に言えば、その日はそこに柵がなかったのです。
そして、それに気づいたときには、もう遅かったのでした。
頂上までたどり着いた男の子は、そのまま穴に落ちて地面に叩きつけられてしまいました。
すごい音がしましたが、男の子はすぐに立ち上がって笑い出しました。
「ごめんごめん、もう戻ろ?」
昼休みが始まってまだ数分も立っていませんでしたが、その日はそこで遊ぶのをやめてしまいました。
次の日から、男の子は本を読むようになりました。
私はその時まで、男の子が本を読んでいる姿なんて見たこともありませんでした。
「ねえ、この本面白いから読んでみてよ。」
そう言って渡されたのは、有名なミステリー作家の一冊。
当時小学生の私は理解できるはずもありませんでした。
それから、男の子は昼休みに勉強をするようになりました。
私が彼に遊びに行かないのかと尋ねると、
「今日はいい。算数やりたい。」
といって、計算カードをブツブツとつぶやきながら解いていました。
前まで持っていた明るさも消え、クールに振る舞う男の子の姿に私は夢でも見ているかのような気分でした。
そして時は流れ、男の子は今、東京で最も有名な大学に通っています。
ある意味打ち所が良かったからじゃない?