汽車の真似をする娘
投稿者:スプートニク0929 (1)
怪談好きな職場の先輩から聞いた、「前世」にまつわる不思議な話です。
若い母親が、幼い娘ひとりを連れて二人で実家に里帰りをしたそうです。仮にその人をAさんとします。
Aさんが久しぶりに帰郷した田舎は山深いところにある、まさに「田舎」といった感じで、コンビニなどなく、お隣さんといっても遠くにポツンと見えるほど離れていて、その間には田畑が広がっているようなところです。
Aさんは、娘さんを連れて、自分がかつて歩いていたあぜ道を散歩することにしました。幼い頃に慣れ親しんだ故郷の道を子どもと一緒に歩いていることに感慨を覚えていると、その娘が急に田畑に向かってなにかに引き寄せられるように歩き出しました。そして唐突に「ぽっぽー!ぽっぽー!」とはしゃぎ始めたのです。Aさんはそれがすぐに汽車の真似なのだとわかりましたが、どうして突然汽車の真似を始めたのかわからずに混乱しました。それでも、娘さんは満足したのか少しすると戻ってきたので、Aさんはまた散歩を再開しました。
次にAさんは綺麗な小川に架かった橋に差し掛かりました。その清流で川遊びをしたことを思い出して思わず笑顔を浮かべていると、やはり唐突に娘さんが「ぽっぽー!ぽっぽー!」と声を上げたのです。今度は川の真ん中を指差しながらはしゃいでます。Aさんは混乱しましたが、やはり娘さんの汽車の真似はすぐに終わったので、特に気にすることなく実家への帰路に着きました。
その次の年もAさんは帰郷することになりました。また散歩をすることにしましたが、成長してもうすぐ小学校に上がる年になった娘さんは、散歩に行くよりゲームをしたいと言ったので、Aさんは一人で散歩することにしました。
散歩の途中、Aさんは見知った顔のお婆さんに会いました。Aさんが子どもの頃にすでにお婆さんだった女性が今も元気に散歩をしていることに驚き、嬉しくなって話しかけました。お婆さんはまったく変わっておらず、頭もハッキリしていて話がとても弾みました。
その内、ふと去年に娘さんが突然汽車の真似をしたことを思い出して、笑い話の一つとして話しました。するとお婆さんは眉を寄せて真面目に考え込み、そしてこう言いました。
「貴女の娘さんは、私より年上ね」
Aさんはポカンとするしかありませんでした。そんなAさんにお婆さんは真面目な顔のまま続けます。
「娘さんが汽車の真似をしたのって、あの辺りでしょう?」
そう言ってお婆さんが指を指したところは、まさに自分の娘が「ぽっぽー!」と言いながら駆けていた場所でした。「どうして分かったんですか?」と言うAさんの質問には答えず、お婆さんは「こっちにいらっしゃい」とAさんを川の方に促します。そして小川の真ん中を指差して言います。
「貴女の娘さんが指差してたのって、あの辺りでしょう?」
当たっていました。どうしてお婆さんがピタリと言い当てられるのかわからずに混乱するAさんに、お婆さんはニコリと安心させるように笑みを浮かべます。
「昔、あの田んぼの中に線路があって、汽車が走ってたのよ。そしてこの川にも線路が掛かっていたの。もう田んぼには枕木もないけど、ほら、川の中には土台がまだ残ってるわ」
あらためてよく見ると、水面下で岩のように見えていたものがコンクリート製の土台であることがわかりました。その上に橋があって、線路を支えていたのです。しかし、幼い子どもが、しかもそれを初めて目にする子どもがそれを線路の跡だとわかるはずがありません。お婆さんはさらに続けます。
「汽車はたしかに走ってたけど、私が小さかった頃にはもう走らなくなったわ。廃線になったの。だからね、貴女の娘さんは、ここの出身で、私よりきっと年上の人なのよ」
Aさんは大慌てで実家に帰り、娘さんに去年の話を覚えているか尋ねました。娘さんは目を丸くして答えました。
「なんの話?」
前世の記憶とは、きっと誰もが持っているのでしょうが、物心がついたらもう忘れてしまうのでしょう。
廃線となった鉄路が蘇って見えたのか。
ロマンチックな話だ。