びっしょり濡れた女
投稿者:ぴ (414)
私は子供の頃、バスで学校に通っていました。
家から学校までがうんと遠くて、車で送ってもらうにも親の職場とは方向が真逆で無理でした。
そのバスで奇妙な体験をしたことがあります。
バスに乗車すると、その日は運転手さん以外誰もいませんでした。
こういう日もあるんだと珍しく思っていたら、少し遅れて誰かがバスに乗り込んできました。
それは頭から服までぐっしょり濡れた女の人でした。
バスはほとんど人がいないので、私はてっきり離れて乗ってくれると思っていました。
でもその奇妙な濡れた女はこんなに空席があるのに、わざわざ私の隣の席に座ったのです。
隣に座られたことで、なんだか圧迫感があって、とても憂鬱な気分でした。
居心地が悪いままバスは出発しました。
山道をしばらく進んで、10分くらい経った頃でしょうか。
私の隣に座っていた濡れた女が動き出し、バスの停車ボタンを押しました。
ゆっくりとバスの入り口に向かっていき、そしてバスが止まって扉が開いたら、その濡れた女はバスから降りていきました。
でもバスがなかなか動き出しません。
おかしいなと思って運転手さんを見たら、運転手さんとばっちり目が合いました。
「お嬢ちゃん降りないの?」と聞かれて、目をぱちくりしました。
だってそこはまだ学校前のバス停ではなく、私が降りる場所ではなかったからです。
私が首を傾げましたが、運転手もまた首を傾げているように見えました。
そしてバスは出発して、目的地で私は降りたのです。
私は降りる直前に運転手さんに「バス停間違わないようにね」と謎の注意をされました。
そのときは気づかなかったけど、その日の夜にあの女の人が降りたバス停の話をしたら母に驚かれました。
そのバス停はずいぶん昔に廃止された今は使われていないバス停だったそうです。
そして思い出してみたらバスの運転手さんは降りるとき、私には話しかけてきたのにもう一人の濡れた女にはひとことも声をかけなかったのです。
それにあの日バスの外はいい天気でした。
なのになぜかあの女の人は全身びっしょり濡れていたのです。
もしかしたら私が見た濡れた女は運転手さんには見えていなかったのかもと思いました。
そしてあの運転手さんはあの日停車ボタンが押されたのに誰も降りてこないので、私が間違って押したと思い込んだのではないでしょうか。
それだとすべて辻褄が合います。
そして隣にいた人が生きている人じゃなかったかもしれないと思うと、少し鳥肌が立ちました。
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