未練の悪戯
投稿者:寇 (4)
俺が大学二年の頃に祖父が失くなった。
発端は母からの連絡で、ちょうど講義終わりの昼休憩中に電話が入ったから出てみれば「お爺ちゃんが死んだ」と泣きながら言われた。
俺の祖父は認知症を患って十年程で要介護4の認定を受け、四年ほど前から特別養護老人ホームに入居していたんだが、今朝に訃報が実家に舞い込んだそうだ。
母方の祖父だが父も懇意にしていたため、父も訃報を受けてすぐに早退し手続きに追われているらしく、母は漸く落ち着いてきたのか俺に連絡を入れたという。
俺は県外の大学に通っているが電車で四時間もすれば帰る事ができるため、すぐに帰省の準備をした。
そして、祖父の遺体が安置されているという葬儀社の近くで待ち合わせしていた母と合流し、その足で葬儀社へ向かう。
「おう、○○。元気してたか」
「ああ、それなりに。それより爺ちゃんは?」
社屋の一室、ホテルのように生活感のあるロビーの奥へ母と入ると、焼香の匂いが充満した室内にスーツ姿の父が職員と話し合いをしていたが、入室した俺に目をやると安心したように表情が綻んだ。
職員に軽く会釈した後、俺は立ち上がった父に倣い部屋続きになった奥へ向かうと、寝台に寝かされた祖父を見つけた。
「お義父さん、○○が来てくれたで」
まるで寝ているんじゃないかと錯覚するほど穏やかに目を瞑る祖父を見て、不思議と実感が沸かなかったが、傍らで父が拝んでいる姿を見て「本当に死んじゃったのか」と心の中で自分の呟きが反響した気分に落ちた。
その後、祖父と久しぶりの再会と近況報告を済ませると、父母と共に葬儀の日程や規模についての話し合いに同席した。
しかし、話し合いは費用の詳細から参列者の名簿作成、家族葬にするか一般葬にするか、会場の大小に関わる些細なものや住職の指名やらで考えることが多く、正直頭が混乱してきた。
「宿泊はどうなさいますか?」
そんな折、職員が今日一日祖父を安置する際の、番というものではないが、最後の別れを偲ぶ時間について触れる。
祖父は明日の朝一でエンバーミングと呼ばれる防腐処理を施す為に葬儀社を発つ。
勿論、夕方までには再び戻ってくるが、その翌日には葬儀が始まるため、祖父と過ごす夜は今日を含めて二日しかない。
ただ、父は葬儀当日は有休を出しているが、ちょうど仕事が忙しいタイミングでの逝去だったので明日は休めなかったそうだ。
母もお世話になった特養での荷物整理や手続きに追われ、更に実父に旅立たれて精神的に参っている。
それに比べたら俺は気楽な大学生だ。
「じゃあ、俺が泊まろうか?」
そこで俺は連絡係としてこの葬儀社の客室らしき洋室に泊まることを買って出た。
意外にも両親共に感謝してくれて、父から「助かる」と言われた時はどことなく気恥ずかしい気持ちになるものの、嬉しく思える。
話が纏まった所で両親は一度自宅に戻り、職員も部屋を出ていったので残されたのは俺と祖父の二人になった。
俺が県外の大学に進学して早二年。
一度も実家に戻っていなかったから二年ぶりの顔合わせだが、祖父は随分と痩せ細ったものだ。
一人になった途端感慨深いものが込み上げてきて涙腺が弛む。
今となっては色褪せた記憶だが、小さい頃はよく祖父に遊んでもらったものだ。
俺はもう一度祖父に手を合わせた後、テレビが置いてある座敷に寝転がった。
おじいちゃんの未練かと思いきや…
面白かったです
おじいちゃんは亡くなっても優しかったね
「おう、○○。元気してたか」
「ああ、それなりに。それより爺ちゃんは?」
この会話絶対間違えてるやろ。母親と子供の会話じゃない。
作者、父親との会話と勘違いしてたっしょ。
最初に会ったのは母だけど会話部は次に葬儀場で会った安心した表情の父としたものと考えてもおかしくは無いと思う。それより通常の葬儀(火葬まで4日程度)で防腐処置までするというのは聞いたことがないので驚いた。地域性?なのかな。