未練の悪戯
投稿者:寇 (4)
この部屋は遺体を安置する場所ではあるが、親族が最期の旅立ちを看取れる様に用意された設備も含まれている為、寝室と風呂トイレにキッチンまで完備された1LDKだ。
俺のように遠方から戻ってくる人が困らないように配慮されているわけだ。
二十畳ほどのL字型リビングの隅に祖父が眠る寝台があり、俺は障子を解放した状態で寝室兼座敷で明日までの時間潰しをするようにテレビを見ながら寛ぐ。
まあ、時折両親と連絡を取り、明日の予定や都合を聞いては仲介業者のように職員に内容を伝えに事務所まで行かされたが。
そんな小さなやり取りを挟んでいると既に夜の九時を回っていて、俺は風呂に入る為にリビングを通る。
チラリと祖父の方を向くが、打ち覆いと呼ばれる白い布を被せたまま仰向けになった動かない体があるだけで、俺は特段気に止めず風呂へ入る。
風呂の内装はまるで自宅のようだが、所々バリアフリーになっているせいか小さな段差も無く快適だった。
それに建物自体がまだ真新しいのか素材も最新式のものが多く、不満に思う所を探す方が難しい。
こんな贅沢な空間に慣れたらボロアパートに戻れないな、なんて皮肉を思いながら頭を洗っていると、不意に妙な音が聞こえた。
ゴトン。
俺は節水の為にシャワーは流す用途以外一端止めているタイプなんだが、シャンプーを泡立てるシャカシャカ音以外に物音が聞こえたから静止した。
テレビはつけっぱなしだが今聞こえたのは明らかに別の音だ。
もしかしたら職員が入室したのか?
だとしたらタイミングが悪いな。
俺は急いで泡を洗い流す為に蛇口を捻ると、湯気を拡散させる温水が勢いよく泡を飛ばす。
ドン。
すると、先程より近くから別の物音が聞こえた。
もしかしたら職員が俺を探して脱衣所の扉を開けたのかもしれない。
しかし、万が一職員だとしても流石に脱衣所はプライベートの侵害だろうと少し不機嫌に思う所だが、今は風呂を済ませるのが先決だ。
俺は泡を洗い流すと水を止めて髪の水滴を絞る。
ふー、さっぱりした。
そうやって磨りガラスの扉に向き直ると、薄い肌色をした人型がドア越しに佇んでいて、
「うおおっ!?」
俺は短い悲鳴を上げてスッ転びそうになった。
流石に浴室の前まで踏み入れるのは非常識だろう。
俺は憤慨しながらも未だ跳び跳ねる心音を抑えて、ドア越しに怒鳴る。
「ちょっと、何考えてんですか!」
俺が強い口調で怒鳴ると、その人影は顔を磨りガラスに密接させ、べったりと貼り付けられた伸びきった皮膚に潰された表情がくっきりと浮かび上がる。
うげ。
流石に幼稚染みた行為に俺は返って気味が悪くなった。
おじいちゃんの未練かと思いきや…
面白かったです
おじいちゃんは亡くなっても優しかったね
「おう、○○。元気してたか」
「ああ、それなりに。それより爺ちゃんは?」
この会話絶対間違えてるやろ。母親と子供の会話じゃない。
作者、父親との会話と勘違いしてたっしょ。
最初に会ったのは母だけど会話部は次に葬儀場で会った安心した表情の父としたものと考えてもおかしくは無いと思う。それより通常の葬儀(火葬まで4日程度)で防腐処置までするというのは聞いたことがないので驚いた。地域性?なのかな。