見間違いの多い友人。

友人がおかしな事を言い出したのは、同じバイト先に勤めだした専門学生の時だ。
幼なじみの彼女に誘われて同じカフェのバイト面接を受けて、二人とも受かった。

専門のクラスは違っても、地元もバイト先も同じ、暇さえあれば一緒に遊んだりダラダラ過ごしたりと仲が良かった。

そんな彼女が、カフェバイトの時に「あの人、赤ちゃん抱えたままで大丈夫かな？」と私に話しかけて来たのがはじまり。
「どの人？」と聞き返すと、「いま私がレジで注文取った人」と言われる。
……彼女が直前に応対していたのはよく来るアパレル店員らしき女の人で、赤ちゃんなんて抱いてなかった。

そのことを伝えると「嘘、絶対に赤ちゃん抱えてたよ！」と言い返されたけれど、オーダーの品物を席まで届けにいって「赤ちゃん、いなかった」と首を傾げていた。
恐らく休憩中だったのか、財布と小説らしき本のみを持っていた女の人の何を赤ちゃんと見間違えたのか。

その後も彼女の見間違いは起こった。

シフトが同じ時でいうと、人数の見間違い(三名様でーす、と言われたけど四人いた)や、お客さまの見間違え(さっきの女性二名のー、と言われるが直前のお客さまは男女のご夫婦だった)が多くて会話がちぐはぐになる事があった。

ある日、カフェがそこそこ混んでいた時の事。
普段あまり混まない時間帯だったのに珍しく列が出来るくらい混んで、元々二人しかいない店内はてんてこ舞いだった。
彼女がレジ打ちとレジ横の軽食準備や冷たいドリンク作成、私が暖かいドリンクとサラダやパスタなどのちょっと手のかかるガッツリ系の調理、少しでも手が空いたら互いの補助……と、目まぐるしい。
嵐のような怒涛のオーダーがひと段落して、一旦片付けをしながらヤバかったねーと笑いあっていると「ヤバいと言えばさ」と彼女が顔を曇らせた。

「あの顔に凄い火傷してた子、結構酷そうな火傷だったよね……あれだけ忙しくなかったら、大丈夫ですかって声掛けてたかも」

なんて言う。
いくら忙しかったとは言え、そんなに広くない店だ。私も料理を届けに何度も客席に行ったけれど、顔に酷い火傷のある人なんていなかった。
そう言うと、「え、またあ？」と見間違いの増えた自覚がある彼女はため息を零しながら「見間違いにしてはエグかった……」と何とも言えない顔をしてた。

けれど、あるお客さんが帰る時、あの子だ、と彼女がこぼした。
「今の子がどうしたの？」と尋ねると、「あの子が顔に火傷してた」という。

制服姿の女子高生だった。
顔に火傷もないし、火傷と間違うような装飾品も特に身につけてなかった。

「あの子が酷い火傷してたの、ほっぺから襟の辺りまで……なかったけど」

どうすればそんな見間違いするかなあ、と気味悪そうに首を振っていた。

──それから一週間か、ギリギリ二週間たってないくらい後。

その日は三人体制で、私がレジとドリンク、先輩が軽食とレジ補助、店長が調理というポジションで、幼なじみの彼女は休みだった。
私がドリンクの補充をしに店の外に出て、戻ってみれば先輩と店長がなにやらヒソヒソしてる。
どうしたんですかと尋ねると、いや今さっき来た子がね、と店長が言う。