タクシーで奥さんを迎えに行く話
投稿者:橋ノ本 (1)
短編
2022/01/10
11:56
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私は都内のあるタクシー会社で働いていた。
小雨の降る深夜の出来事だった。
私は外苑東通りを空車で走っていた。JR信濃町駅前の信号を左折した。
K大学病院の横断歩道脇にパジャマ姿の壮年の男性が立っていた。手を挙げたので、K大学病院の方へ渡るのかと思って止まった。
すると後ろのドアをノックする音がした。振り返って自動ドアを開けると、そのパジャマ姿男が乗ってきた。
「運転手さん、ちょっと遠いんだけど、いい?」
「どちらへ?」
「高速上がって八王子まで行ってよ」
有り難いお客だった。
八王子インターを下りて、道案内通りに暗い道を抜けると光を放つコンビニが現れた。
「ちょっと買い物をしたいので待っててくれる?」と言って客は店の中に入っていった。
5分経っても10分経っても出てこない。
乗り逃げかと慌てて店の中に入るとレジ前に店員しかいない。客が入ってきたかと聞くと誰も来ないという。
判然としないまま車に戻り運転席に座ると、後ろのドアをたたく音がする。客が戻って来たかとドアを開けると、和服を着た女性だった。
「少し遠いんですけど、乗せてもらっていいですか?」
「信濃町のK大学病院なんですけど。今、夫が危篤だって知らせを貰ったものですから・・・」
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