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不思議体験

桃の人工水さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

わたしにだけ響くノック
短編 2021/11/04 06:57 1,387view

母方の祖母、両親、わたしの3世帯で、3階建ての一軒家に住んでいたころの話です。

3階建て、と言っても階段の両脇に直接部屋の入口がくっついているようなタイプで、廊下らしい廊下は1階にしかありません。
1階がキッチンとリビング、2階に両親の寝室、3階は対面しているように2部屋あり、左はわたし、右が祖母の部屋でした。
当時わたしは中学生。母型の祖父はわたしが生まれる前に亡くなってしまっていたため写真の人、という印象です。

中学生という多感な年齢も相まって、わたしは自宅にいるときはほぼすべての時間を自室で過ごしていました。
学校から帰ってはまず自室にこもる。ご飯を食べたら風呂が空くまで自室。風呂上がりにはあいさつもそこそこにさっさと部屋に戻ってしまう。

反抗期、というほどなんでも文句を言っていたわけでは無かったと思いますが、
その分家族とのコミュニケーションはまともに取れていなかったように思います。

ある時、いつものように部屋にこもり、そろそろ寝ようかと思っていたところ。スライドして開くタイプのドアから「トントン」とノックが聞こえました。
「何かリビングに忘れ物でもしたかな」。ドアを開くと向かいの部屋で祖母が寝る支度をしている最中でした。

今ノックした?と聞いてみても、してないよ。という返事。特に何もしてないというのです。
もしかしたら聞き間違いだったかな……。そう思ってその日は気にせず就寝しました。

しかし、その後も控えめなノックは続きます。耳を澄ませるとノックしているのはどうやらドアの下の方。
子どもでもしゃがまないとノック出来ないような位置で叩かれているようです。

最初は「おばあちゃんがからかっているのかな」と思っていたわたしも、
ノックされてすぐ扉を開けた先で祖母が今にも寝ようかと電気を消し、布団に入り込む瞬間だったのを見て、
どうやら違うようだと思い始めました(祖母は自分に何かあったら怖いから、といつもドアを開けたまま寝ていました)。
元々ふざけて怖がらせるような人でもありませんでしたし……。
ただ、ノックが鳴るときは必ず祖母が部屋にいるタイミングだけでした。

不思議だったのは、夜に突然トントンとノックの音が聞こえる、というような状況だったにも関わらず

少しも怖いと思っていなかったこと。
わたしは大人になった今でも相当な怖がりで、映画ですら怖いものはまともに見られないのですが……。

ノックの音はその後半年以上続きましたが、ある時ぱたりと無くなってしまいました。
祖母が入院してからです。
結局あれは何だったのだろう。もう一度だけ祖母に聞いたものの、やはりわたしじゃないよ。という返事。
その後は一度もノックがなることはありませんでした。

大人になり引っ越してから、母に一度だけこの話をしたことがあります。
母は少しだけびっくりしたような顔をして「もしかしたら、おじいちゃんが来ていたのかもしれないね」と言いました。
その時聞いた話によると、祖母は当時わたしがあまりにも家族と話さなかったため、
何か大変なことを一人で抱えてしまっているんじゃないか、人と話すのもつらくなってしまっているのでは、と心配していたのだそうです。
「だからおじいちゃんが、おばあちゃんが心配してるよ、って教えてくれてたのかもね」。

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