髪の毛が落ちている。髪の毛って厄介だ。
投稿者:メドチ (1)
髪の毛って厄介だ。
絡みついたり、落ちていたり。長いの、短いの、白髪、茶髪、カールしたの、細いの。会社や自分のアパートで髪の毛を見つけた場合、まず、これは誰のだったかって考える。だいたいは、そこにいた人間の中の誰かだから、見当はつく。オフィスだと、こんな長いのは、あの子しかいない、とか。このパーマのかかったのは、お局の婆様だろう、とか。これがまた、机の上だの、紙の間だの、パソコンのキーボードだの、色々なところに落ちている。
髪の毛には念が籠ると誰かが言っていた。迷信だとその時は笑ったが、今は全然笑えない。
なぜなら、まさに今、意味の分からない現象に悩まされているからだ。ああ、まただ、と、俺は呟く。仕事から帰ってアパートでくつろいでいる時に、あぐらをかいた裸足の足の上とか、ソファベッドの枕とかに、それは落ちている。一度なんか、やけに指が痛いと思ったら、小指に絡まっていた。その時はぞっとしたものだ。
その髪の毛が誰かの怨念だとして、今のところ、そいつは髪を落とす以外に悪さはしていない。毎日掃除機をかけ、綺麗にしていても、やっぱり髪の毛は、俺の体や、俺が座るところ、たまに食べ物の上にも落ちている。長く、黒い髪の毛だ。こんなに長い髪の毛は、全く現代的ではない。相手はいつの時代の、何者か。
あれは連休に、古都に旅行した時のことだ。たまにはいいだろうと思い立って一人旅をしたが、宿がなかなか取れなかった。やっと取れた部屋は、角部屋の四畳半で、埃っぽかった。旅館の人の表情からも、その部屋があまり良いものではないことが分かった。
(まあいい。寝に戻るだけの場所だ)
旅行寸前に無理を言って取ってもらった部屋だ。二晩、俺はその部屋を使った。別に何もなかったが、気になったのは、布団にやたら落ちている髪の毛だった。
「なげーんだわ・・・・・・」
枕に渦を巻いて落ちているそれは、平安時代の姫かと思うような長さだ。シーツは毎回変えてくれているはずだし、一体どうして髪の毛がつくのか不思議だった。きっと旅館の人の中に長い髪の職員がいるのに違いないと、俺は思った。
しかし、その後、古都から普段のアパートに戻ってからも、長い髪は俺について回った。
スーツの肩に。車の座席に。アパートの部屋に。いたるところに、髪の毛が引っかかった。まるで、存在を主張するかのように。
髪の毛の怪は、相変わらず続いている。やはり、他には何事も起こらない。嫌なことは嫌だが、そろそろ慣れてきた。問題はいずれ結婚する時、変な疑いをかけられないかということだが、まあそれは、俺が長い髪の女に惚れれば問題もないだろう。
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