窓の外は昼間のはずなのに、教室の中だけが妙に薄暗かった。
講義が始まる少し前。ざわざわとした話し声。ノートを開く音。椅子を引く音。 いつもの教室。いつもの席。いつもの風景。
その中に、なぜか毎回目に入る女の子がいた。
別に知り合いじゃない。 好みのタイプというわけでもない。 特別目立つ服装でもないし、誰かとよく話しているわけでもない。
なのに、ふと気づくと視線がそこに向いていた。
最初は、自分でも理由が分からなかった。
講義中、教授の話を聞きながら。 移動教室の廊下で。 出席確認のとき。
気づけば、その子を探している。
でも、ある日ようやく気づいた。
顔を見たことがない。
前の席にいても、横を通っても、なぜか顔だけが印象に残っていない。
髪型も、着ている服も、持っているペンケースも思い出せるのに、顔だけがない。
思い返そうとすると、頭の中でそこだけ黒く塗りつぶされるみたいだった。
その日から、余計に気になった。
名前を呼ばれているのも聞いたことがない。 誰かと話しているところも見たことがない。
でも、毎回ちゃんとそこにいる。
そして誰も、そのことを気にしていない。
気にしているのは、自分だけだった。
講義は終盤に入り、最終課題が出された。
内容は、講義に関するプレゼンを録画して、共有フォルダに提出するというものだった。
提出された動画は学生同士で閲覧できるようになっていて、みんな参考にしろと言われた。
家に帰って、何人かの動画を流し見していたとき、不意に思い出した。
あの子。
動画なら、顔が見えるはずだ。
そう思った瞬間、妙な背徳感があった。
覗き見をしているような、触れてはいけないものに触るような感覚。
それでも、止められなかった。
共有フォルダをスクロールして、名前を探す。
知らないはずなのに、見た瞬間、それだと分かった。
他の学生と同じ、学籍番号と氏名が並んだ普通のファイル名。






















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