「私は、認知症などではない」
「……?」
理解が追いつかなかった。
「君は、良い人間だ」
吉川さんは、静かに続けた。
「真っ当に生き、こんな老いぼれにも、優しくしてくれる。だから……話すことにした」
⸻
吉川さん「妻のかよこは結婚後、私が子供を作れない男とだと、子孫も出来ないどうしようもない男だとわかると酷く悲しみ、絶望した。
やがてその絶望は、怒りへと変わった。
最初は些細な嫌がらせだった。
弁当におかずが入っていない。
話しかけても無視される。
だが次第に、それは暴力へと変わっていった。
それでも私は、自分が悪い。自分の体が悪いのだと言い聞かせ、妻の暴力を受け入れた。
定年後、家にいる時間が増えると、暴言と暴力は毎日になった。
――私の人生を返せ。
――お前は生きる価値のないゴミだ。
そんな罵詈雑言と命の危険を感じるような暴力を受け続けた。
そして、ある日。
私は料理中の妻に、何気ない一言を言った。
それが妻の逆鱗に触れた。
包丁を持った妻が、襲いかかってきた。
私はナイフを持つ妻の手を抑え体を突き飛ばした。
妻はバランスを崩し、居間のコタツの角に後頭部を打ちそのまま動かなくなった。
我に返った私は妻の元へ駆け寄った。
外傷はなかったが当たり所が悪かったのか妻はピクリとも動かない。
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