見ました？

学生時代の話。
持病の関係で入院しながら学校に通ってたんだけど、病院って研修医とか、准看護師みたいな若手の人が居るじゃん？
ウチの病院はそういった方たちがメインで私たちの世話する感じだったんだよね。そんな中で新しい准看護師が入ったわけよ。

「初めまして、准看護師の田中です。これからよろしくお願いします。」

最初の印象は爽やかな好青年って感じ。でも、なんかその好青年に違和感を覚えたんだよね。なんかこう、笑顔を無理やり作っているような…笑ってるけど笑ってない感じ。
周りの人たちはそんなことなくて、やっと若手のイケメンが来た！ぐらいの歓迎ムード。

自分の勘違いか捻くれだろうってその時は思って、思い過ごすことにした。

彼が入って一年半くらいしたときかな。彼が変なことを言い始めたんだよね。

「自分は前職は町工場勤めで職場内でトラブルを起こして辞めっちゃったんだ～！アハハ！」

最初はドジッた話だと思ったんだ。好青年でもそんなドジ踏むんだなって。でも、彼が次に発した言葉にすごく驚いた

「工場長、スパナでぶん殴ってクビになった！あはははは！！」

え…？殴った？？？最初は驚いた。でも、もっと驚いたのは周りがそれを褒め称えてたことなんだよね。
「カッコイイ！」「ドラマ見たい！」とか。多分当時流行ってた下克上ドラマみたいにみんな捉えてたんだと思う。

それで気をよくしたのか、どんどん武勇伝を彼は話すようになった。やれ、友人をタコ殴りにしただの…私物を全部捨てて燃やしてやっただの。

それからしばらくして彼は徐々に子供たちへ暴力をふるうようになっていった。最初はプロレスごっこと言いながら、極め技をしたり、軽めな投げだったんだけど、蹴りとかゲンコツとか喧嘩殺法になっていったらしい。僕がそれを目撃したのは相当エスカレートしたときだった。

持病の手術で足を固定されて車椅子だったから、暇で院内を散歩してんだよね。そしたら、ドンガラガッシャン!!って大きな物音がした。そしたら、子供が2，3ｍ地面を転がってのたうちまわるのが見えたわけ。

慌てて物陰に隠れて何があったのか確認しようとした。
なんで隠れたかといえばめちゃくちゃ感じたんだよね。殺気。
中二病じゃなくてガチで…ほぼ本能で隠れた。

「なめんなよ。クソガキが…カタにはめてやったんだから口答えすんじゃねーぞ。」

あの好青年だった。

そして気が付いたらそいつが自分の真後ろに居て、「見ました？」って。

その日から自分が標的になってしまった。
人目がない用具庫とか人口膀胱を処置する特殊トイレに連れてかれて、殴る蹴るがほぼ毎日になった。機嫌がいい時は鼓膜に平手打ち。機嫌が悪い時は姿勢固定用のロープで首を絞められた。
眼がチカチカしだして、寒気を感じた辺りでやめる
こんな感じ。
ルームメイトに相談したりもしたが、ソイツは八方美人な奴で
「いじめられるお前が悪い」って言ってきやがった

徐々に追い詰められた自分は奇行をするようになった。
昼休みになると病院に戻らないといけないわけだからそれが嫌だったんだろうね。男子トイレでゲロ吐いて気失ってたらしい。
それでも限界がきて、とうとう自分は決心した