祖母が降らせた霧
投稿者:阿弥 (3)
短編
2021/03/13
22:50
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母から職場に電話が入った。
「祖母が亡くなった」という連絡だ。
私は小さな会社の事務員をしているのだが
月末の一番忙しい最中の訃報だった。
「遅くなると思うけど、仕事が終わったらとりあえず
おばあちゃんの家に直接行くから」
そう約束して母の電話を切った。
少しでも早く仕事を片付けて駆けつけなきゃと思いながらも
祖母と過ごした時間ばかりがよみがえってくる。
美味しいゴハンを作って食べさせてくれたこと。
畑の野菜を取りながら一緒に遊んでくれたこと。
勤務中だというのに涙があふれて止まらない。
ここ数年は頻繁に会っていたわけではないものの
「もうこの世にはいない」
という現実が悲しみを連れてくるのかもしれない。
夕方、私が祖母の家に着いたのはもう7時を回っていた。
私の父と母の他に親戚も数人集まっていた。
しばらく顔を合わせてなかった叔父や叔母に軽く挨拶をしてから
横たわる祖母のかたわらに座った。
手を合わせ、顔にかかった白い布を外す。
痩せた。
年齢的なものもあるだろうけど、
思い出の中の、はつらつとした祖母の顔はもうどこにも無いのだ。
枕元の小さな祭壇のローソクの火に
お線香を一本かざす。
悲しみに手が震えた。
「おばあちゃん、ありがとう」
それだけが言いたくて駆けつけたようなものだ。
両手を合わせて目を閉じると再び涙があふれてきた。
小一時間ほど居ただろうか。
私は明日また早朝に来ることを母たちに伝え、
運転してきた車に乗り込んだ。
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