仏間を映す鏡
投稿者:ヨモギの子 (1)
実家にはベルトで巻かれた丸い鏡が仏間を映すように置かれていました。
かなり古い鏡でしたが、子供の時からあったので特に何とも思ってはいなかったのですが、
高校の時、何気なく前髪をセットしようと近くにあったその鏡で整えようと鏡を覗き込みました。
最初は特に何もなかったのですが、
体感にして10秒くらい見ているとゆっくり鏡に映る自分が消えていき
同時にその鏡には軍服を着た男性が現れました。
軍服を着た男性は全体的に茶色のような緑のような不思議な色を周囲に纏ってましたが
色白で身長160cmくらい細身、深く被っている帽子からは髪の毛が見えなかったので
多分坊主だと思います。
幼少期、祖父の戦時中の写真を見せてもらった時、祖父の故郷は海辺なのでかなり色が黒く
親戚にもそんな体格の人はいないので誰なのか、鏡に映る男性を凝視していました。
しかし男性は特に私の方などを見ることもなく男性は仏壇に向かってまっすぐ
歩いていき、仏壇の前で膝を着くと手を合わせて何か言っているようでした。
その後その男性はスゥーっと消えていったのですが、
その一部始終をまばたきすることなく見ていた私は急に怖くなり
母の元へ走って今起きたことを話すと、母もそんな親類に心当たりがないとのこと。
夢でも見たんじゃないかということで、その時は恐怖心とモヤモヤが残ったままになりました。
ただ、そこから約5年後、叔父が遠縁の親戚を調べることがあり
食事をしながら親戚を調べてる話をしてくれたのですが、
写真を見せてもらうと鏡に映った軍服の男性とよく似た体型の人が映っていて
その場で固まってしまいました。
そんな様子の私に叔父は、写真の男性の話をしてくれました。
その男性は祖母方のかなり遠縁にあたり、戦争が終わったら実家を説得して一緒に暮らすことを約束した女性がいたのですが、
男性の母親が許さず、戦後の混乱に乗じて実家には帰らず、その女性の元へ向かっていたとのこと。
しかし、向かう途中で倒れ病院に運ばれたが、心臓が悪く程なくしてこの世を去ってしまった。
今ほど連絡手段が簡単ではなかった上に、戦後の混乱の中ということもあってその女性の元へは
男性のことが伝わらず、その女性は別の男性と結婚したとのこと。
その女性というのが私の祖母にあたり、もしかしたらようやく会いに来れたのかもしれない
と、叔父は何とも言えない静かな声で話してくれました。
それを聞いた私は、その時抱いた恐怖心よりも切なさが込み上げてきたのを思い出します。
願いが成就されることなく世を去った人の気持ちを想うととても辛いです。戦争が起きなければ、と思わざるを得ません。