暗がりの中に
投稿者:かしわもち (2)
これは学生時代に経験した下校中の出来事です。
その日は朝から雨が降っていましたが、下校時には運良く止んでいて畳んだ傘を手に、水溜りを避けながらの帰り道だったのを覚えています。すっかり日も暮れていて、街灯の並ぶ大通りを同級生たちと並んで歩いていました。
私は友人たち2人と歩き、その後ろには続々と同校の生徒たちが続いていました。私のすぐ後ろには当時私が気になっていた同級生の男子生徒がいて、その男子生徒の隣では私の友人の女子生徒が後ろから私に話しかけろと茶化し続けていました。気になっていることを隠したい気恥ずかしさからでしょう、私はなるべくそちらに意識を向けないようにしていました。それを見ていた両隣を歩く友人が「行こうか。」と気を利かせてくれたので、私達は早足でその場を離れるように逃げました。
同級生たちの列から離れ、友人たちと3人で他愛もない話をしながら歩いていました。大通りを抜け、住宅街に入り、先程の大通りよりも少なく点在する淡いオレンジ色の街灯が並ぶ道を行き角にさしかかる時、ふと、横に目を向けました。そこは1階が駐車スペースとなっているマンションがあり、駐車スペース奥の暗がりの中に人が立っていました。
暗がりの中の人がこちらに視線を向けているので目を凝らして見ると、それは先程私に対し茶化して話しかけてきていた友人でした。一緒に歩いていた友人たちが暗がりにいる友人や立ち止まる私に気づくことなく話に夢中になって先に進んでいく中、暗がりの中にいる友人が私に声をかけてきました。
「なんで逃げたの。」
と言うその友人の手には、大きく歪に捻じ曲げられた、くの字状の傘が握られていました。
身の危険を感じ、走って先を行く友人たちを追いかけましたが恐怖が先行して先程見たことを友人たちに話すことは出来ず、私の様子を見た友人が自宅まで私を送ってくれて事なきを得ました。
その後は学校へ行ってもその友人とは特にトラブルも無く過ごせていましたが、今でもその友人との縁を切ることができないのは、その当時の出来事を忘れることが出来ないからでしょうか。
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