ノンフィクション
投稿者:獺堂 (1)
とある猟奇的な犯罪を題材にした面白い物語を書く小説家がいた。
犯罪者と被害者の心理をじつに巧妙に描き、まるでその犯罪現場にいるかのような臨場感で読者を物語の世界にぐいぐいと引き込んでいくのだ。
すばらしい小説家でボクもファンの一人である。
ただし、ボクはこの小説家にひとつの疑念を持っている。
ひょっとして、この作家は本に書かれているような猟奇犯罪を本当に犯しているのではないか?
そう思わせるほどに、この作家の物語にはリアリティーがありすぎるのだ。
ボクは潔癖な人間でどんな小さな犯罪行為も断じて許すことはできない男である。
この作家が罪を犯しているのであれば、それを暴き断罪すべきであるという正義感がボクを動かした。
さっそくこの小説家のことを調べるべくネットで情報を収集。
この小説家はメディアに出てこないことで有名なのだが、素性を隠すなどますます怪しい、やはり身バレすると都合の悪いことがあるのではないか?と疑う気持ちが強くなっていく。
調査には難儀したが鬼女板で鍛えたボクの捜査スキルを駆使すればどうってことはない。
時には情報を金で買い、時には怪しげな人物に接触し裏アカも突き止めた。正義のために小説家の素性を明らかにしていった。
本名、年齢、卒業アルバムも入手し本人を特定したが
意外なことに小説家は華奢な若い女性だった。
もっとこう犯罪者然とした外見を想像していたが、見た目もなかなかの美人である。
なんということだ。こんな若く美しい女性があんなリアリティー溢れる猟奇的な描写ができるなんて!
信じたくはないが事実は小説より奇なりという言葉もある。
皆は騙せてもボクは騙されない。あの小説の内容は本物だ。
間違いなくこの女は怖ろしい犯罪者なのだ。
ますます執念を燃やしたボクは小説家の個人情報を暴いていくことに生き甲斐すら感じるようになってきていた。
毎日のルーチンや好きな食べ物、好みの男性のタイプや入浴する時間帯。念のためお気に入りの下着の色や形まで執拗に調べ上げた。
家は東京都内のマンションに一人暮らしをしていることは調査済み。
ここからそう遠くはないのでもう何度も通っているが、犯罪者のくせにやたらセキュリティーの高い建物に住んでいることが許せない。
相手は怖ろしい犯罪者なのでこちらも護身用のナイフを用意した。
いよいよ明日から本格的に張り込みを始める。仕事も辞めたので何日でも見張っていられる。
あんな怖ろしいストーカー犯罪を小説にするサイコパスを放っておくわけにはいかないのだ。
実在する小説家ですか?
それが書けるから小説家なのでは無いのでしょうか?
異常な思考と執着心で気づかないうちに自分もストーカーになってたってことですな
やっちまいなよ!