祖父の死後
投稿者:たかし (1)
T県から来た俺の家族はその日、ホテルを取っておらず、じーさんの家を借りて一泊したのち帰るということだった。たかしはどうする?と聞かれたので、葬式の後1人で帰るのも寂しいし、一緒に泊まることにした。風呂はみんなで銭湯に行った。
その晩、家の一室で家族5人が寝ることにした。生前じーさんが寝ていた部屋、かつてはソファーなど家具で活気があふれていた部屋も、今では小綺麗に整理整頓され、大黒柱を失った家は強烈な寂しさを感じさせた。
寂しがり屋なじーさんが、ばーさんが入院して以降、こんな物悲しい部屋で1人で生活していたなんて、と想像すると涙が出そうになった。
親父も同じ事を感じたようで、涙を堪えていた。
押し入れにキレイに畳まれた布団を出し、それぞれがじーさんの思い出話をし、眠りにつこうとした頃だった。
俺だけが違和感を感じていた。
真っ白な布団に入り目を開けると、電気が切られ真っ暗なはずの部屋の天井に、昼間葬式で見た、青色や黄緑色の提灯の灯りが天井に映り、回転しているのが見えた。不思議と怖さは感じなかった。
「じーさんが亡くなってすぐだし、こんな不思議なこともあるだろう」
と思い、目をギュッと閉じてまた見てみたが、その青や黄緑色の灯りはまだ天井を回転していた。家族の誰も何も言わないので、見えていないのだろうと思った。寝てしまえば問題ないだろう。と考えて何も言わずに寝ることにした。
通夜、葬式で疲れていたこともあって、目を瞑るとすぐに眠りに落ちた。どのくらい寝ただろうか、猛烈な違和感を覚え目が覚めた。厳密に言えば、枕元に、上から至近距離で覗き込まれているような感覚に突如襲われた。例えるなら、金縛りが来る!とわかるときがあるが、そんな感じの、それより何十倍も強い感覚だった。
強烈な悲しみの感情が俺の中に入ってきて、このままじゃヤバい!と抵抗した瞬間、俺は訳がわからなくなった。気がつくと、
「うおおおお!うおおおお!」
と叫んでいた。黒い影が何体も見え、俺は襲われるような感覚に捉われ、無我夢中で叫びながら抵抗した。長い時間に感じたが、気がつくと親父が倒れていた。
訳がわからず家族に訊ねると、突然俺が叫び始めて目が覚めたという。目は上を向いていたそうだ。そして、近づいてきた父親を蹴り倒したと。全く覚えていなかった。俺は、ただ自分の中に入ってこようとした存在から逃れようと必死に抵抗し、その周囲にいた黒い影からも逃げようとしただけだ。体は強張り、喉は枯れてカスカスの声しか出なかったが、なんとか声を絞り出した。
「そうだったんだ。」
怖くて怖くて、もう寝られなかった。だが猛烈に体が疲れていたので、電気をつけて布団に横になることにした。心配してくれた妹と、何年かぶりに手を繋いで寝た。
天井にはまだあの提灯の灯が回転していた。
眠気に襲われ、気付くと寝ていた。しかし、また枕元から覗き込まれるような感覚に襲われ、またしても俺は叫んでいた。黒い影のような物も見た。訳がわからなくなっても、本能で抵抗していたんだと思う。声の続く限り叫び、気がついたら父親に肩を揺さぶられていた。
「たかし!たかし!大丈夫か!?」
正気に戻ると、家族全員俺の方を向き、とても心配そうな、怯えたような顔をしていた。そこからはもう眠れなかった。朝一番でお坊さんに連絡し、お経を上げに来てもらった。夜中は禍々しい雰囲気が立ち込めていたが、お経ををあげ始めるとスーっと空気が浄化されていくような感じがした。初めてお坊さんすげーと思った。事のいきさつを大まかにお坊さんに話すと、人が死んだ後は不思議な事があり、どんな事があっても驚かないそうだ。さすが、坊さんは経験値が違う。
一旦俺は落ち着いたが、それ以降、誰かと話していても違う声、女の人の声や子どもの声が聞こえたりして、一人暮らしの部屋には到底戻れず、しばらく親戚の家で寝泊まりすることにした。
お祓いに行く話も出たがなんとなくいい気がしなかったので断った。俺自身消耗していたが、なんとか気力を振り絞り正気を保って、自分を強く持つ事だけを考えていたら、自然に声は聞こえなくなった。1ヶ月くらいはかかったと思う。
その後なんとか大学を卒業し、現在社会人として平凡な毎日を送っている。というお話です。
一切盛っておらず、全て実話です。
もし、あのまま黒い影になすがままにされていたら、聴こえてくる声が止まなかったら、正気を失ってどこかから飛び降りていたと思います。
今になって考えると、祖父の家に1人でシャワーを浴びに行った時、呼ばれていたのかな?思います。
最後になりますが、寂しがり屋のじーさんが、あの世でばーさんや家族と楽しく過ごしている事を祈り、この話を終わります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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