結婚式の心霊写真
投稿者:アマリリス (3)
私には誰にも言えない秘密がある。
今となっては恐ろしくて引き出しの奥にしまったままの一枚の写真。
それは友達のEの結婚式で私がスマホで撮影したもので、幸せの最高潮を感じさせる名画の様な一枚なのだが、唯一私にとっては恐怖を内包したパンドラの箱となってしまった。
あれはEの結婚式に招待された十二月の事。
私は高校時代から続く数少ない交友関係だった為、招待された嬉しさから手放しで祝福した。
出席前日には懐かしい他の友達らと合流し、Eを交えて近況報告から昔バカやってた出来事を繰り返し語らい笑い合ったものだ。
そしてEの結婚式当日、私はほどほどに着飾った服装で列席し、数年振りに再会したEのご両親と短い挨拶を交わした後に祝儀袋を納める。
式場にはEの同僚やら結婚相手の男性の関係者が多く列席していたが、私は友達と共に教会の席に座り、バージンロードを歩くEの姿を涙ながらに見つめ盛大に拍手を贈った。
後の披露宴でも、私達は高校時代の友達同士で席を割り振りられていて、Eの気遣いを感じて嬉しかったものだ。
やはり時代なのか、挙式中にも驚いたが、近年の結婚式ではスマホ撮影が当たり前のようで、会場に居た殆どの列席者がスマホを取り出して主役の二人を撮影しており、スタッフが誰一人注意しない事を見届けた後に私達もこぞって撮影を始めた。
披露宴ではE夫婦と親しい間柄のスピーチや出し物で歌を贈る人が居たりと楽しい催しがあったが、中でもケーキ入刀はスタッフ自ら、
「さあ、皆様方。これから始まる最初の共同作業を好きなだけ映像にお納めください。熱々のお二人が赤くなる様子を近くで見たいという方も前へいらしてください」
と囃し立てていたので、私達も浮かれてスマホを片手に席を立った。
ケーキ入刀を経て新婦から新郎へケーキを食べさせてあげる様子をばっちり撮影した私は、画面の中で仲睦まじく笑い合う新郎新婦を見て心から嬉しく思った。
しかし、その楽しかった思い出はすぐに壊される事になる。
結婚式の二次会が終わった夜8時頃だろうか。
私は自宅に戻り一通り家事を済ませた後、お風呂に入って一息つく。
そして、就寝前にテレビを見ている途中、そういえば結婚式で撮影したデータを確認していない事を思い出し、ソファに横になりながら徐にスマホを操作する。
バージンロードを歩くEとEの父親の姿。
待ち構える新郎。
接吻する新郎新婦。
これらは動画で撮影した為、何度見ても当時の高揚感が蘇りウキウキするものだ。
そして披露宴での出来事も大量に記録してある為、私は一枚づつスクロールして見ていく。
ケーキ入刀のシーンは確か連射設定で写真撮影したものだ。
かなりの量をにやけながら見ていくと、私の指は一枚の写真で立ち止まってしまう。
「…え、何これ」
その一枚とは、ケーキ入刀を終え切り分けた一口を新婦が新郎へ食べさせて上げた後の至福の一枚。
本来ならば新郎新婦が互いに羞恥心で赤面している初々しい夫婦を写した記念写真なのだが、私のスマホが写し出したモノは新郎新婦の顔がぐちゃぐちゃに潰れた気味の悪い写真だった。
まるでミキサーで刻んで押し潰した様な顔をした写真を見て、私は吐き気を催したが写真をすぐに削除する。
そして念の為、他の写真もサムネイル越しに顔がおかしなことになっていないか確かめたが、どうやら今しがた削除した一枚以外はどれも普通のようで安心し、ふっと短い溜め息を零す。
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