赤黒い四本の手足を生やした本体は、まさに赤ん坊の如く小さな胴体を持っていて、その頭部に埋め込まれた顔のパーツは白く濁った眼を全開に開き、ローマ字の「U」のように閉じた口許の口角を上げて満面の笑みを浮かべているように見えた。
私は後退りながらも恐怖から腰が引けてしまい、廊下の壁にもたれかかるようにして座り込む。
たが、赤ん坊はハイハイするように私の足元までやってくると、小さく『あー…あー…』と駄々をこねるように声を漏らし、私のズボンの裾を掴む。
そして、一旦顔を伏せたかと思えば、急に私の身体をよじ登ってその満面の笑顔を咲かせた顔を押し付けながら、
『マァァァマァァァアアアア』
と抱き着いてきた。
気が付けば私は廊下で一夜を過ごしたようで、肌寒い早朝の日射しを浴びて目が覚めた。
不意に昨晩の赤ん坊の事を思い出して飛び起きるものの、私の衣服や体にそれといった痕跡もなく、戸惑う。
おじさんの事を思い出し居間を確認すれば、どうやらおじさんも私のように気絶したのか、窓辺でぐったりと横たわっていた。
私がおじさんを叩き起こすと、目を覚ましたおじさんは「……ん、あ?あああああ!?」と飛び跳ねていた。
それから私は、昨晩気を失って気が付いたら朝になっていたと説明すると、おじさんも「俺も気を失ってたかも」と分かり切った事を言っていた。
その後、顔を洗ってシャキッと気を取り直した私達は、昨晩食べ散らかした残りをつまみながら、あの赤ん坊について話し合った。
やはりおじさんもあの赤ん坊の事をしっかりと目撃していようだ。
おじさんの話によれば、酒を飲み過ぎて寝入ってしまった後、変な鳴き声が聞こえてきて目が覚めたそうだ。
目を開けると消灯していて、おじさんはコタツに入って横たわった状態で辺りを見渡すのだが、その際、視界の隅に小さな物体を捉えたらしい。
それがおじさん目掛けて近づいてきていると分かると、おじさんは体を起こしてそれが何なのか確かめる為に凝視するが、例の赤ん坊だと分かった途端卒倒しかけたそうだ。
しかし、不運にもその場で気絶できずにいると、赤ん坊ははしゃぐ様に嬉々と声を上げ、おじさんに迫ってきたと言う。
おじさんが窓辺で震えていたのはそういった経緯があったのだ。
「そこにトイレから戻った私が来たんですね」
「……怖かった」
おじさんはそう言いつつも朝から缶ビールを空けていた。
結局、あの赤ん坊が何なのかは分からずじまいだ。
私はおじさんの計らいで、現在住んでいるおじさんの家に暫く厄介になる形で古家を引き払った。
その間おじさんは知り合いの伝手で住職やら神主やらに相談したそうだが、これといってあの古家に霊障とか曰くのようなものは発見できず、堂々巡りとなっている。
因みに、私はと言えば、おじさんの家で厄介になってから例の鳴き声や赤ん坊を目撃するといった事もなく、つつがなく過ごしている。
おじさんも特段そういった霊障を持ち帰った事もなく、平穏無事に過ごせているが、どうにもあの古家を訪れると妙な視線を感じると言っていた。
私も荷物を取りに訪れた際に、やはり肌を突き刺すような奇妙な視線を感じたので、当分は近寄りたくもない。
あの赤ん坊がなぜ私が引っ越したタイミングで現れたのか分からないが、もう二度と体験したくない出来事だった。
























いや怖いよ
面白かった!
この投稿者さんの名前って…
気になって翻訳しちゃいました
インドネシア語で呪いみたいな意味があるようですね
怖い…
バイオハザードヴィレッジ(バイオ8)のベネヴィエント邸に出てくる赤ちゃんを想像してしまった…