【特別投稿】或る殺人者の手記
投稿者:奇々怪々 (1)
国道沿いの、大型車用まである広い駐車場のついたコンビニに車を停めました。
あまりに車のない端の方だとかえって目立つような気がして、ひとのいない車から一台空けて停めました。
トラックのドライバーやら、何人かひとがいましたが、中に刑事でも混じっているような気がして、怖くて仕方ありませんでした。
さっさと冷たいお茶を買って戻ろうとしましたが、自分は何だか無性にたばこが吸いたくなって、店の外の端にある灰皿のところまで行って、一本火をつけました。
煙を吐き出したときに、ひとがこちらに歩いて来て自分に話しかけようとしたときには、「もう見つかったのか」と思いましたが、自分の思い過ごしでした。
長距離トラックの運転手らしいその男は、「火を貸してくれないか」というようなことを言って、自分の渡したライターで火を点けると、うまそうにたばこを吸い始めました。
男がまたなにか言おうとしているようだったので、自分はライターを受け取るのも忘れてその場を離れました。
まわりを見まわしてから車に乗り込んで店長の方を確認すると、なぜか店長にかけた上着が盛り上がっていました。
一体何なんだ。右手を伸ばそうとしているかのようです。
店長は死んだ、店長は死んだ、と自分に言い聞かせます。
遺体のことなど医者でも刑事でもない自分に詳しくわかるはずもありませんが、探偵小説で読んだことのある「死後硬直」にでも関係することなのでしょうか。
ペットボトルのお茶を無理に流し込んで気を落ち着けます。
いやにひやりとしたお茶が流し込まれて行き、自分の食道の管のかたちがわかりました。
数分後、自分は気を取り直して、また車を南に走らせました。
ここまで来ればもう隣の県です。
だから警察に見つからない、ということにはならないのでしょうが、少し気持ちが落ち着いてきたようでした。
とにかく遺体を処分しなければならない、と思いました。
そのまましばらく出鱈目に車を走らせて行くと、小さな川に行き当たりました。
ここは、県境を流れる大きな川の支流にでも当たるのでしょう。
全国的に名の知られたその大きな川とはちがって、芝に覆われたさほど高くない堤防に両側から挟まれて川が流れています。
近くにはコンクリートの大きな壁のようなものもありました。「水門」というやつでしょうか。
しかし、そのほかには堤防のてっぺんにサイクリングにでも使うのであろう舗装された細い道がある以外には、周囲には家もなく、通りがかるひともいませんでした。
自分は唾を飲みこんでから、あたりを見まわしました。
そして、ここしかない、と思いました。
ここからが大変でした。
ひとが通らないとはいえ、いまはまだ昼間です。
周囲に気をつけながら、自分は右手を伸ばしたまま固まっている店長の遺体を後部座席から引きずり出しました。
足の方を持って、力いっぱい引っ張ると、ずるずると、遺体が動きました。
顔は見たくなかったので、かけた上着はそのままにしながら。
ずるずる、ずるずる、と遺体は車の外に段々と出てきましたが、支える者のない頭部が鈍い音を立てて車体のへりにぶつかって地面に落ちました。
その拍子に上着がずれて、店長の顔が除きました。
光を失った瞳がまっすぐに虚空を見つめていました。
傷口の穴に詰めたおしぼりが黒っぽく変色していて、一見すると何だかわからない黒いかたまりになっていました。
切れた首の部分から、頭が変な方向に向いています。
実話をもとに書かれたリアルな体験談。
中盤から終盤にかけてのモノローグ。
得体の知れない衝動に駆られ、かくたる動機もなく、人を殺めてしまったことへの後悔と罪悪感に苛まれ、恐れおののく様がぐいぐいと痛いほど伝わってきます。
精神を病み、幻想とも幻覚とも付かない店長から逃げ惑う日々に終わりを告げ、安堵する姿は、どこかホッとさせるものがありました。
17年の実刑判決を終え、穏やかで平穏な日々を送られていることを切に祈り願います。
読み応えありました
いくつかの単語でググったら割と有名な事件出てきたけど、そんな簡単に特定できるわけないですよね
当時の彼女のことは警察には言わなかったのかな
次回作も期待
福川水門かな
人殺しの分際で周りを屑呼ばわりとかもう静かに暮らしたいとか随分と図々しい人だな、ほんとに反省してる?もし本当に店長の呪いなら警察に捕まろうが刑務所に何年入ろうが追ってくるよね。結局自分の妄想に自分で決着つけちゃってそれで良しとするこの人の最後まで自己中な心持ちが透けて見えるだけだった。
作品として面白かったです。
ノンフィクションだとしたらなかなかの文章力。さすが腐っても国立合格の教養といったところでしょうか。