【特別投稿】或る殺人者の手記
投稿者:奇々怪々 (1)
とりあえず、包丁を洗ったりして、人を殺したばかりでしたが自分はなぜか冷静だったと思います。
あんなクズは死んでも仕方がなかったのです。
「え…?」
という声がカウンターから聞こえたので、自分も顔を上げました。
テキーラでつぶれていたMが起きたんです。
Mはあのころ自分とつきあっていた女です。
地元の子で、高校出てからは水商売ばかりやってきた女でしたが、自分の店に飲みに来て苦労話とかを聞いてやっているうちにいつのまにか付き合うようになっていました。
その日も飲みに来ていて、テキーラを飲みすぎてカウンターでずっとつぶれていました。
「おはよう。ちょっと手伝って」
「え…え…なに、これ」
「いや、ちょっと」
「え…マスター…。え…ちょ…ウソ…」
Mはなにが起こっているのか理解できないようでしたが、自分が蛇口にホースをつないで、床に水を流し始めるとそのようすを声も出さずにじっと見ていました。
床には排水口が付いているので、水といっしょに血も流れていきます。
固まりかけた赤黒い血がいくらか残りましたが、デッキブラシでこすればまだどうにか取れました。
ありったけのおしぼりを出してきて、店長の首というか、首に開いた穴の中に突っ込んでいきます。
血の流れはだいぶおさまっていましたが、動かすとまだ出るので咄嗟にそうしました。
正直、もう動かない店長の処理をするのは、厨房で魚をおろすのとあまり変わりない感覚で、何だか不思議に感じたのを覚えています。
さすがにこれをこのまま置いておくわけにはいかない。
どこかにこれを捨てないと。自分がそう思ったときに、Mがやっと状況を理解したのか、口を開きました。
「殺したの…?」
「うん」
「どうして…?」
「わかんない。何か殺しちゃった」
「え…?どうして…?」
「もういいじゃん、こんな奴。さあ、これを捨てるんだから、おまえも手伝えよ」
「いやだ…」
「いやだって。こんなところを見ちゃったんだから、おまえも共犯だろ。捕まりたくなかったら手伝え」
「…」
Mは、冷静な自分とちがって、まだ酔っていたし、おどろいていたし、もう正常な思考ができていなかったんだと思います。
しばらく、何度もまばたきをしながら(店長といい、Mといい、どうしてこんなにまばたきをするのでしょう)考えて、やっとのことで「わかった」と低い声でつぶやきました。
実話をもとに書かれたリアルな体験談。
中盤から終盤にかけてのモノローグ。
得体の知れない衝動に駆られ、かくたる動機もなく、人を殺めてしまったことへの後悔と罪悪感に苛まれ、恐れおののく様がぐいぐいと痛いほど伝わってきます。
精神を病み、幻想とも幻覚とも付かない店長から逃げ惑う日々に終わりを告げ、安堵する姿は、どこかホッとさせるものがありました。
17年の実刑判決を終え、穏やかで平穏な日々を送られていることを切に祈り願います。
読み応えありました
いくつかの単語でググったら割と有名な事件出てきたけど、そんな簡単に特定できるわけないですよね
当時の彼女のことは警察には言わなかったのかな
次回作も期待
福川水門かな
人殺しの分際で周りを屑呼ばわりとかもう静かに暮らしたいとか随分と図々しい人だな、ほんとに反省してる?もし本当に店長の呪いなら警察に捕まろうが刑務所に何年入ろうが追ってくるよね。結局自分の妄想に自分で決着つけちゃってそれで良しとするこの人の最後まで自己中な心持ちが透けて見えるだけだった。
作品として面白かったです。
ノンフィクションだとしたらなかなかの文章力。さすが腐っても国立合格の教養といったところでしょうか。